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グローバル・ヒストリーの目的の一つは、歴史に見られる巨大で一貫したパターンを、近代のヨーロッパの優越を特権的な基準とすることなく抽出することです。しかし現実にはウォラーステインが論じるヨーロッパの資本主義世界システムを参照点とすることなしに、大きな歴史のナラティブを構築することは容易ではありません。近代性、発展、従属といった術語のどれも19世紀のヨーロッパを基準点にして意味付けられています。このヨーロッパ中心主義から脱するためにフランクが示唆するような中国中心主義へと舵を切る道は有望かもしれません。しかしそれは中国文化・文明、ヨーロッパ文化・文明といった単位を歴史の説明的要素として引き入れてしまう危険があります。これはシュペングラー、トインビー、(部分的には)ウィリアム・H・マクニールがたどった道であり、最終的には西洋文明の行く末を歴史の終焉とみなすフランシス・フクヤマの議論や諸文明の衝突を唱えるサミュエル・ハンティントンの議論のような文化決定論に行き着きかねません。むしろインド洋や大西洋世界のような従来周縁と見なされていた地域における交換の過程をナラティブの中心に据える新しい動向や、文化相互の接触の度合いから時代区分を設けるジェリー・ベントレーのような研究がグローバル・ヒストリーに重要な洞察を与えてくれています。もうひとつの有望な工夫は、時間にともなって文化の多様性が減少するというモデルを立てることです。しかしこれには実は多様性は農耕の開始により増大したのだから、むしろ初期には少なかった多様性が農耕により増大しそれが徐々に縮減していくと考えるべきではないか。いやしかし現代でも多様性は決して減じていない、といった反論がありえます。そもそもこの多様性の土台である文化というのは近代性とか発展とか従属とかいったもの以上に客観的なものなのでしょうか。グローバル・ヒストリーもやはり一度「出来事」という水準に立ち返って新しいナラティブを構築することを迫られています。
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