考古学にもとづくギリシア史 周藤『古代ギリシア 地中海への展開』3–9章

古代ギリシア 地中海への展開―諸文明の起源〈7〉 (学術選書)

古代ギリシア 地中海への展開―諸文明の起源〈7〉 (学術選書)

 考古学調査にもとづく記述がますますさえわたる後半部です。いろいろ衝撃的なことが書かれています。ミュケーナイ社会の崩壊により、ギリシア世界からは文字が失われ、その時代についての後代の記述もほとんどない暗黒時代(初期鉄器時代)が訪れます。その時代を知る手がかりはほぼ土器と墓のみです。これらについての考古学的調査から分かってくるのは、前8世紀にアテナイの人口が増加していることです。この時期の人口集中こそが政体としてのポリスの成立を指すのではないかと推測されます(ただこの結果をギリシア世界全体にどの程度拡張できるかは謎)。いま政体としてのポリスといいました。これは都市構造としてのポリスとは区別されるべきもので、この後者のポリスは政体よりも遅れて成立します。しかもその成立はアテナイやスパルタではなく、西方への植民活動に積極的に取り組んだポリス、あるいは植民先のポリス自体において起こりました。都市構造としてのポリスの特質は城壁による外部世界との境界の明確化、都市中心の公共スペースの存在、市街地の均等の分割によって特徴づけられます。これは植民者が植民先で直面する問題に対処するために発達した都市構造であったと考えられます。このポリス構造がギリシア世界に広まるなか、植民ではなく国制改革により危機を乗り越えようとしていたアテナイとスパルタが次の時代に台頭することになりました。

 この他にもギリシア語アルファベット成立の仮説の紹介(ホメロスを書き記すためにエウボイア人が考案した!)、考古学調査に基づくデーモスと領域の実態の再現、ギリシア人のジェンダー(家のなかで特定空間に押し込められていたのはむしろ男性)とセクシュアリティといった多岐にわたるわたる話題がとりあげられています。最初の一冊ではないでしょうけど、ギリシア史の最新の研究成果に触れたい人はぜひお読みください。