プファイファーとかつての古典学 根占「エラスムス覚え書」

 人文主義の巨人であるエラスムスの研究状況を概観する論考です。20世紀初頭の作品から2000年代の研究にいたるまで、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語の成果にバランスよくめくばりされています。個人的にはルドルフ・プファイファーによるエラスムス『反蛮族論』研究が紙幅を割かれて紹介されていることに目が行きました。プファイファーと言えば、本文中にあるように古典文献学史についての大著を著したことで名高い。しかしやはり古典語を学んだものとしては、カッリマコスの校訂者としてのプファイファーを外すことはできないでしょう。古典学の研究室に通っていたころ何度もその名前を聞きました。かつての古典学者はギムナジウムで鍛えた語学力で、自由に古代とルネサンスを往復していた感があります。プファイファーの場合、ユダヤ人として家庭で受けた教育も、その学識獲得に寄与するところがあったのかもしれません。しかしそういう時代は過ぎ去って久しい。