ハーヴァード大学ルネサンス研究所・特別講演会参加記録

 今日は学習院女子大学で開催されたルネサンス研究会に出席してきました。日本のルネサンス研究会、ヨーロッパ中世・ルネサンス研究所、そしてハーヴァード大学ルネサンス研究所であるヴィラ・イ・タッティの共催となる講演会です。いくつか印象に残ったことを書き記しておきます。

 まず最初の発表は、ジョナサン・ネルソン氏によるVilla I Tattiの紹介でした。ジョナサン氏によれば、イ・タッティ研究所に滞在するフェローには何の義務も課されません。本を書く必要も、レクチャーをする必要も、パワーポイント1枚作る必要すらありません。充実した研究施設のなかでただ研究者たちと交流すればいいのです。たとえばランチとおやつの時間に。

 続くリノ・ペルティーレ氏のダンテ論は、『神曲』の冒頭部に関するものでした。内容について私はなんらの判断も下すことはできないのですけど、とにかく語りがすごい。最初は少し訥々とした感じではじまった発表がいつのまにか朗々とした『神曲』の朗読を挟みながら盛り上がっていき、最後は彼の言葉が会場を支配していました。パワーポイントはいちおう使っていましたけど、ほとんど意味はなし。話も配布した原稿を忠実に読みながら進みます。いま流行りのプレゼンテーションのやり方ではない。むしろ望ましくないと言われるものかもしれない。しかし語りの持つ力が問答無用で場を支配する。「この私のすばらしい語りをとにかく聞け」と言わんばかりの朗々とした声が響き渡ります。これがレトリックの伝統が真に生きていた時代に育った文人かと衝撃を受けました。

 私は科研費プロジェクト「西欧ルネサンスと日本におけるキリシタンの世紀」の紹介をしました。私の発表の出来はともかくとして、発表後の反応をうかがった限りでは手応えを感じることができました。イ・タッティの方々もルネサンス研究会のメンバーの方々も科研プロジェクトに大きな可能性を感じ、関心を寄せてくれたと思います。また新たに発足したJARS(The Japanese Association for Renaissance Studies)も、ネルソン氏の発表や懇親会の場で言及されるなど、すでに存在感を発揮しはじめていました。やはり英語の公式サイトがあるのが大きい。これからはこの科研プロジェクトを含めたさまざまなルネサンス関係のイベント情報をイ・タッティの公式サイトにも掲示してくれるそうです。また科研メンバーでイ・タッティでカンファレンスを開けないかと頼んだら(人間その気になるとどこまでもあつかましくなれる)、応相談ということでした。今後の展開に期待していてください。次は7月20日金曜日に学習院女子大学にて会議を開催する予定です。詳しくは下記の公式サイトからどうぞ(今後さらにデザインを洗練させる予定です。お楽しみに)。

 伊藤博明先生と根占献一先生の発表がそのあとに続きました。お二人の近年の研究については記事をあらためて書こうと思います。何しろ伊藤先生は長尺のシビュラ論を出したばかりですし、根占先生は7月の会議での発表が控えています。