誰がモーセ五書を書いたか(5) Malcolm, "Hobbes, Ezra, and the Bible"

  • Noel Malcolm, "Hobbes, Ezra, and the Bible: The History of a Subversive Idea," in Malcolm, Aspects of Hobbes (Oxford: Oxford University Press, 2002), 383–431.

 続いてMalcolmは、イブン・エズラの後に、モーセ五書の著者の問題についての批判的な議論を促した最大の人物として、アルフォンソ・トスタド・リベラ・デ・マドリガル、通称トスタトゥスを取り上げる。トスタトゥスはその全集が16世紀に3回、17世紀に2回、18世紀に1回出版されており、広く読まれていた。

 Malcolmは、トスタトゥスはモーセが自身の死に預言によって言及することは可能だとしながらも、『申命記』第34章5節にある彼の墓についての「今日に至るまで、誰も彼の葬られた場所を知らない」という記述をモーセに帰すことはできないとした。ここの「今日」は明らかにモーセの存命中ではないからである。では『申命記』第34章5節から12節の著者は誰なのかというと、トスタトゥスはエズラによって書かれたという見解の存在を認めながらも、ヨシュアによって書かれた可能性が高いとしている。

 Malcolmはまた、『申命記』第3章11節にあるオグの寝台への言及や、『申命記』第3章14節の記述について、トスタトゥスがエズラによって書かれたものだと考えていたことを指摘する。トスタトゥスは、モーセが『申命記』を書いたことを認めながらも、エズラが後に律法を書き直した際に、これらの箇所を付け加えたと主張した。

 Malcolmは、トスタトゥスがこれらの箇所ではモーセが著者であることを否定した一方で、問題となりうる他の箇所についてはモーセが著者であることを主張したと指摘する。これらの判断の違いの基準をトスタトゥスは明示していない。しかしMalcolmによれば、重要であるのはトスタトゥスがモーセ五書の著者は誰なのかということを、批判的に検討すべき問題と提示し、検討の対象となりうる箇所を列挙したことである。これにより彼は、この問題に取り組み、さらにはモーセが著者であることを疑問視する人を生み出したのである。