アウソニウス 婚礼のつぎはぎ歌 

 詩人アウソニウスの『婚礼のつぎはぎ歌』という作品です。とりあえず手元にある本で、この歌についての解説がありましたので、それを引用しておきます。

アウソニウスの悪戯心が如実に示された作品『婚礼継ぎ接ぎ歌』(Cento nuptialis)は、ウェルギリウスの詩行をコラージュの要領で継ぎ接ぎにして歌うという趣向であるが、皇帝ウァレンティーニアーヌス一世の命を受けてわずか一昼夜で作ったというから、驚きである。全編これウェルギリウスの詩句ならざるはなく、「婚礼の宴」、「花嫁の入来」、「花婿の入来」、「祝いの品の贈呈」、「祝婚歌」、「床入り」と進んで、最後の「インミヌーティオー」(英語にいう “deflowering” )で「彼ら不思議の戦をぞ試むる」(『アエネーイス』巻3、240の借用)次第。ここからあとは翻訳が憚られるほどに、「詩聖」ウェルギリウスの言葉が俄然卑猥な意味を帯びていき、30行にわたって新床の一件が仔細に、かつ過激に語られる。
『ラテン文学を学ぶ人のために』, p. 267.

このような歌なのですが、この歌のメインは書いてある通り、「インミヌーティオー」にあります。これは上で引用した本ですら訳されていません(英語訳だけ書いてありますが、英語にしたら卑猥でなくなると考えているのでしょうか)。
 defloweringというのは「童貞、あるいは処女を奪う」という意味です。そして、ここでは明らかに「処女を奪う」という意味で使われています。
 ここはあまりに過激だと思ったのでしょう、私の手元にある英語訳では訳がついていません。ラテン語と向き合ってラテン語が印刷されています。1919年の本ですからね。この時代の対訳はときどきこうなっています。
 なお、上の引用にもありますが、この歌はすべてウェルギリウスからの引用、というかウェルギリウスからの借用で成り立っています。その借用の仕方ははっきりいって超絶技法の次元で、古代末期というのはすごい時代なんだな、と実感させられます。
 とりあえず訳を載せますが、あまりに長いので、興味のある人は8の「処女を奪う」のところだけ読まれることをすすめます。確かに20世紀初頭では訳せないのも仕方ないかな、という感じはあるかもしれません。

 訳については『牧歌・農耕詩』は小川正廣訳を、『アエネーイス』は高橋宏幸訳をそれぞれほぼ借用しています。要するに訳自体が、ウェルギリウスの日本語訳からのコラージュとなっています。

 それでは以下が翻訳です。テキストは

http://www.intratext.com/IXT/LAT0574/_IDX002.HTM

に一応おいてあります。

アウソニウス(310頃‐93/4) 『婚礼のつぎはぎ歌』

アウソニウスから親愛なるパウルスへ

 この小さな作品はほんとうにくだらなくて一文の値打ちもないです。でも、もしそうする価値があると思うならば、読破してください。この作品は苦労して作り上げられたわけではないし、丹精込めて磨き上げられたわけでもありません。才能のほとばしりもなければ、倫理的に成熟しているわけでもありません。

 最初にこの手の作品をつくって遊んだ人たちは、これを「つぎはぎ歌」と呼びました。必要なのは記憶だけで、ばらばらのものを集めてきて一つの作品に仕上げるのです。だからこれは褒められるというよりも、むしろ笑われるべき作品なのです。

 もしこれが工芸品売り場のオークションに出されたとしても、このためにアフラニウスがクルミの一つほどの金を払うこともないでしょうし、プラウトゥスだって自分が食べた果物のしんを差し出すこともないでしょう。なぜなら、これはあまりにふざけた素材を用いて、立派なウェルギリウスの歌に泥を塗っており、要するに噴飯物なのです。

 だが私はなぜこんなことをしたのでしょう。命じられたのです。一番圧力がかかる類の命令でした。命令する権限を持った人の命でした。つまり尊い皇帝ウァレンティニアヌスが頼んだのです。彼は、私が見るところでは、非常に教養のある人です。

 ウァレンティニアヌスは、かつてこの手の遊び心を発揮して、結婚についての作品をしたためました。それはうってつけの詩行からできており、作品としても機知に富んだものでした。彼はそこで、私と優劣を競って、どれほど自分が優れているかをためそうと思い、同じテーマについて私にも似たものを書くように命じました。

 これがなんと私にとって危険なことだったか、あなたにもお分かりいただきたいものです。私は彼に先んじることも、彼に遅れを取ることも望んではいませんでした。なぜなら、もし私が彼に譲るとすると、私のあまりに明白な阿諛追従は、他の人たちの目が光っている前では、何の効果も発揮しなかったでしょうし。反対に、もし皇帝と競って、私がそれを凌駕してしまえば、つつしみを知らないやつということになっていたでしょう。だから私としては、半ば断りモードでこれを引き受けたのですが、幸いにも、立場的には皇帝の部下のままで、その好意を保つことができましたし、勝負においては私が勝ったのですが、何か被害を受けるということはありませんでした。

 これは一日のお昼とその夜にかけて急いで書いたもので、つい最近私の草稿類のなかから見つけてきました。私に対するあなた誠実さと愛情には絶対の信頼を私は置いています。だから、こんなお笑い作品でも、あなたの厳しい目から遠ざけておくことはやめることにします。だから受け取ってください。この作品は、まったくもってばらばらのものが、一つにつなげられてできています。様々なものが一つに詰め込まれています。まじめなものからできたおふざけです。私たちとは縁もゆかりもないことから、私たちに関係するものが出来上がっています。聖なることや神話を話すときに 、トゥヨーニアーヌスやウィルビウスという名前が出てきても驚かないでください。前者はディオニッシウスが、後者はヒッポリュトスが変化した名前なのです。

 もし教えを受けるべき方の私が、教えを垂れることを、あなたが許してくれるならば、「つぎはぎ歌」とは何であるかを説明しましょう。これは場所も違えば意味も違うパッセージが、歌としてなんらかの統一体をなすようにしてくっつけられたものです。つまり半行を二つ集めて一行にするとか、一行半と半行をあわせるとかしたものです。二つの行をならべて置くというのは不十分ですし、三つの行を一つにならべるとなっては、これはただの駄弁にすぎません。すべてはカエスーラによって分けられます 。このカエスーラは英雄詩から取られており、penthemimeris (-uu-uu-) にはanapaesticus (uu-uu-uu--) を、trochaice (-uu-uu-u) にはそれを補うようなものを、七脚半 (-uu-uu-uu-) にはanapaesticus choricus (--uu-) を、dactylusと半脚 (-uu-) にはどのような形であれ、ヘクサメトロスの残りの部分を補います。

 このつぎはぎ歌が、ギリシア人がオストマキオンと呼ぶ遊びに似ているという人もいるでしょう。オストマキオンというのは小骨のことであり、それらは合計40個の幾何学的な図形です。あるものは正三角形であり、あるものは不等辺三角形だったりします。不等辺三角形の中でも、あるものは直角三角形だったり、あるものは斜角の三角形だったりします。これらのことを、ギリシア人たちはイソスケレス、あるいはイソプレウラ〔ギリシア語で正三角形の意味〕と呼び、またオルトゴニア・スカレーナ〔ギリシア語で直角不等辺三角形の意味〕とも呼んでいます。

 このような小さな接合片を、いろいろなやり方でくっつけることで、1000にものぼるいろいろな形が作り出されるのです。例えば動物としては象、猛獣としてはイノシシ、鳥としてはガチョウ、また武器を持つガリアの剣闘士、待ち伏せする狩人、狩をする猟犬、さらには塔や大ジョッキ、その他同じようにして、数え切れないほどの形が作り出されます。そうやってつくられる図形の出来は、プレイヤーのスキルに左右されます。よってベテラン勢が作り上げた作品はすばらしく、駆け出し勢がつぎはぎしてつくった作品は笑止千万なものになります。

 あらかじめこのように言っておけば、私がこれから何を模倣するのか、あなたもお分かりでしょう。つまり、私はこのつぎはぎ歌を、オストマキオンが遊ばれるようにやってみたいのです。

 いろいろ異なった意味が合わさって一つの意味をなすようにし、養子縁組で取ってきたものが元からの親戚であるかのようにし、他所からとってきたものが目立たないようにし、集められたものが、結集させている力に反発しないようにし、密集したものが限度を超えて膨らまないようにし、ばらばらにされたものがその痕跡をあらわにしないようにするのです。

 このようなことが、すべて命じられたとおりになっているとあなたに見えたならば、あなたにも私がつぎはぎ歌をつくったと言っていただけるでしょう。そして私は皇帝に仕えているあいだに、つぎはぎ歌を作ったとされたのですから、あなたとしては私に任務終了後の賃金が支払われるようにと命令されるでしょう。もしそうでなければ賃金支払いの停止を行うでしょう。つまり、この積み上げられた歌が、もとあった国庫に返還されて、詩行はそれがもといた場所に帰るようにと命令されるでしょう。チャオ。

1. 序

 この言葉を心して聞け。喜び勇んで聞き逃すな 。二人とも闘士があり、二人とも卓抜した武芸を誇っていた。二人とも若さの盛りで、戦争にかけては無敵の種族。お前がまず先だ。なぜなら大海を超え行くお前には大いなる神の導きがあり、明白な証がある。お前にまさって心正しく、敬虔な者、戦闘と武器にかけてすぐれたものは他にいなかった。お前とお前の息子よ、偉大なるローマの第二の希望よいにしえの勇士らに連なる武勇の精華よ、私の最愛の者よ、名は祖父から貰い受け、心意気と腕力は父譲りの者よ。私は命じられぬことを歌うのではない。各人とも自身の企てに応じて苦難も幸運も得るであろう。私は命令をただ実行するのみ。

2. 婚礼の食事

 待ち望んだ日がやって来た。ふさわしい婚礼の場に、母たち、父たち、そして両親の眼の前で若者たちが顔をそろえ、深紅の敷物の上に横になっている。召使たちが手に水を注ぎ、パン籠に上製のケレスの贈り物を積み上げ、肥えた鹿のはらわたを焙って捧げる。偉業の限りない連なりである。鳥類も畜類も、しつこいノロ鹿もそこには欠くことはなく、羊や元気のよい子山羊も、海の種族も、臆病なダマ鹿や逃げ腰の鹿も欠くことはない。熟れた果実も目の前に見えていて、手のうちにある。
 空腹が満たされ、食欲が満たされたのち、彼らは大きな混酒器を据え、バックスの恵みを注いでまわる。聖歌を歌い、足で拍子をとって踊るもの、歌を歌う者がある。裾の長い衣をまとったとトラーキアの神官も調べにあわせて7つの音階を弾き分けている。だが、別の場所では馴染みの笛が筒二つの調べを鳴らす。すべてが同時に仕事を休み、みなが宴の席を離れて立ち上がる。門口まで喜びを溢れさすほど賑やかに、持ち場を散って役目を交代する。父たちも婦人らも少年らも人々はみなである。飛び交う声が広壮な広間を満たす。黄金を貼った天井の鏡板からランプがかかっている。

3. 進み出る新婦の描写

 ウェヌスの自愛を最も正当に受ける彼女がようやく現れる。すでに夫を迎える年頃、すでに結婚にふさわしい年回りを満たしていた。乙女の顔と物腰をして、火のように深い赤みがさして、熱くなった顔中に広がった。見開いた目をめぐらしている。彼女が見るとすべてが燃え尽きてしまう。その様子を、家や畑から飛び出した若者のすべてと大勢の母親らが驚いて眺める。足元では爪の先が白い。髪を風の吹き流すにまかせている。黄金の糸で模様を織り込んだ衣服、かつてアルゴスヘレネが飾りとした品。美しさも背丈もウェヌスを天の神々がつねに目にするとおりのままの姿だ。そのような姿で、そのように喜ばしげに現れ、夫の父母の近くに高い玉座に身を置いて座った。

4. 進み出る新郎の描写

 だが別の場所では、彼が高き扉の内へ入ったとき年若く剃る髭のない顔に初々しい青春がうかがわれた。外套には針で刺繍を施し、その縁には深さをきわめたメリボエアの緋紫が川のうねる模様を二重に走らせていた。母がしなやかな金糸で織ったトゥニカもまとっている。その顔と両肩は神と見紛った。青春が照り映えている。ちょうどオケアヌスの波で水浴びしたのちに、明けの明星が神聖なる顔を上げるよう。そのような顔、そのような目をしており、狂ったように門口へ向かって走ってくる。愛に心が乱れ、乙女の顔をじっと見つめる。口づけを与えて、彼女の右手を堅く握り締めた。

5. プレゼント贈呈

 少年たちが入場する。親たちの面前に足並みをそろえ、供物を捧げる。それは金糸で刺繍した絵柄がこわばった長衣だ。贈り物として、数タラントゥムの金銀と象牙そして椅子を携え、サフラン色のアンカサス模様を描いたヴェールを着ている。山のごとき銀器が卓上に並び、真珠の首飾り、宝石と黄金の二重の環で飾られた冠もあった。女には女奴隷が与えられる。その奴隷には乳を飲ませている二人の息子があった。四人の若者と、同数の未婚の乙女らが男には与えられる。しきたりどおりに全員が髪を切りそろえ、胸元高く黄金をよったしなやかな首輪が首に巻かれている。

6. 両者へ捧げる結婚おめでたソング

 このとき母親たちが意気込んで飛び出して、門口まで先導する。すると仲間のニンフたちが、少年たちも嫁ぐ前の少女たちも粗野な歌で戯れては、歌を歌う。「おお、似合いの夫と結ばれたのだ、最も愛しい妻よ。あなたは幸せだ、女神ルキナの最初の苦しみを味わって母となるのだ 。マエオニアの酒の杯をとれ。新郎よ、胡桃の実を撒き散らせ。この祭壇に柔らかな帯をまきつけよ。いにしえの勇士らに連なる武勇の精華よ、妻が連れてこられるのだ。このことによって、彼女は終生お前とともに過ごし、お前を立派な子供の親とするであろう。幸せな二人よ、もし敬虔の心を知る神々の威光に少しでも力があるなら、幸せに暮らしてくれ。「急げ」とパルカたち は運命の確固たる意志に心合わせて紡錘に命じた。」

7. ベッドイン

 さて彼が、軽石でできた丸天井の部屋に着くと、ようやく許された会話を楽しむ。双方は出会うと右手を結び合わせ、床に横たわった。だが、キュテーラの女神と介添えのユーノーが新しい術策を呼び起こし、わきまえ知らぬ戦(いくさ)に挑めと促している。彼が彼女を優しく抱いて愛撫する。と、にわかに彼はいつもの炎と婚礼の床を受け入れる。「おお、乙女よ、私にはまだ見慣れぬ顔よ、最も愛しい妻よ、ついにやって来ましたね 、私のただ一つの、晩年の喜びよ。愛しい妻よ、これは神々の意志に反して 成就したのではないのです。あなたは心にかなう愛とすら戦うつもりですか。」
 このように言う彼を彼女は向かい合ってずっと見つめていた。恐怖にたじろぐ、迫り来る槍におびえる 。希望と恐れのあいだに心は揺れて、こう囁きの言葉を放つ。「あなたと、あなたをこのような者に生んだ両親にかけて、
ああ、美しい少年よ、ただ一夜のあいだだけお願いです、一人残され、寄る辺のないこの女を慰め助けてほしいのです。私は倒れこんでしまいました。舌も動かず、体に覚えの力も発揮できず、声も言葉も出てきません 。」彼はそれでも、「いたずらに言いわけをつなぎ合わせても埒があかない。」すべての妨げを振り捨てる。恥じらいの心のいましめを解いた。

脱線

 さて、ここまではきれいな耳にあわせるためにも、婚礼の秘密を曖昧な語り口で、遠まわしに述べることで隠してきました。けれども、婚礼の祝祭はフェスケッニアの歌を好み、言葉上のふしだらさは、古くからのしきたりにのっとった遊びも許してくれているのです。だから、残りの寝室とベッドで行われたことを、同じ作家から寄せ集めてきて、明らかにしてしまいましょう。そうすれば、私はかのウェルギリウスですら恥知らずなものにしてしまったということで、二度恥ずかしい目になるでしょうから。そうしたい方は、ここで読むのを止めにしてください。残りは興味ある人たちのために残しておいてくださいね。

〔ここから英訳なくなります。ヴィクトリア朝の人は注意してください〕

8. 処女を奪う

 ぶつかり合ってからは、人っ子一人いない夜の下で、闇と乱心をウェヌスが吹き込む。かつてない戦いを二人は挑む。
 男は身を起こして立ち、女はどれほど反抗を試みてもむなしい。正面から顔を打ちつけ、足がぶつかるまで怒りをたぎらせ肉薄する。不実な男が深みを目指していく。
 二人は互いに足を結び合わせる。衣に隠していた枝が血の色の庭常(にわとこ)の実と辰砂(しんしゃ)で真っ赤に染まり、頭をむき出しにしている。おそるべき怪異、醜悪な、目を奪われた巨人だ。
 これを脛のところから抜き放つと、あわてる相手へ怒りをたぎらせ襲いかかる。奥まったところに、そこに通じる道が細くなっている場所がある。燃えて痙攣する穴だ。陰になっていて硫黄の息を噴き出している。身の清いものがけがれた敷居に立つことは許されない。ここには恐るべき洞窟があるのだ。このような毒気が黒々とした狭い道からから噴き出し、鼻に馴染みの匂いをかがせる。
 ここへと若武者はおぼえのある道筋を通って進み上から覆いかぶさって、節も落とさず樹皮も削がぬ柄の槍を渾身の力を込めて投げつける。刺さると、深く打ち込まれて乙女の血を吸う。空洞がうつろな響きを呻きを上げた。
 女は死にゆく手で槍を引き抜こうとするが、切っ先は骨のあいだで生身にまで深く染み通り、傷を負わせている。三度、身を起こそうと、肘を支えに体を持ち上げたが、三度床に転び伏した。
 相手は恐れたそぶりを少しも見せぬまま、休止や休息どころではない。舵にはりついて動かず、一歩たりともは慣れようとせず、両目を星々へと向け続けた。何度も行ったり来たりし、子宮はこだまを返す。肋骨を貫き 、象牙の撥(ばち)で響かせる。
 今や走路も終わりに近く、今や走者が疲れながらもまさに決勝点に到達しようとしていた。その間断ない喘ぎが四肢と乾いた口を震わせ、汗の流れはいたるところに川をなす。血の気が失せて萎える。分泌液が脛の付け根からしたたり落ちる。

わが友パウルスよ、これで満足してくれ。パウルスよ、この汚いページで。笑ってくれればよい。それ以上は望まないよ。

(あともうちょっと著者による弁明が続きます)