森鴎外とハルナック

 アドルフ・フォン・ハルナック(Adolf von Harnack, 1851-1930)という、キリスト教史の研究で有名な研究者がいます。

ここいらに一応経歴がまとめてあります。
英語に訳されている著作だけでも

  • キリスト教の本質』Adolf von Harnack, What is Christianity? (Introduction by Rudolf Bultmann.)
  • 『紀元1, 2世紀における教会法の成立』Adolf von Harnack, The Constitution and Law of the Church in the First Two Centuries.
  • 『福音と教会』Adolf von Harnack, The Gospel and the Church.
  • 使徒行伝』Adolf von Harnack, The Acts of the Apostles.
  • 使徒信条』Adolf von Harnack, The Apostles' Creed.
  • 『教義史』Adolf von Harnack, History of Dogma, 7 Vols.
  • 『マルキオン:異邦の神の福音』Adolf von Harnack, Marcion: The Gospel of the Alien God.
  • 修道院生活:その理想と歴史、そしてアウグスティヌスの『告白』』Adolf von Harnack, Monasticism: Its Ideals and History and the Confessions of St. Augustine.

 日本語でも関係する著作がいくつか出されています。

キリスト教の本質

キリスト教の本質

ハルナックとその時代

ハルナックとその時代

最初の著作はハルナック自身の作品で、二番目は2002年に出た研究書です。

 とにかく西洋古典学に興味がある人で知らない人はいないくらいの学者さんなのですが、このハルナックに森鴎外が言及しているんですね。鴎外には『かのように』という作品があります。作品自体は

↑で読むことができます。この『かのように』はなんともいえない小説なのですが、その中にたとえば次のような一節があります。

ベルリンにいる間、秀麿が学者の噂(うわさ)をしてよこした中に、エエリヒ・シュミットの文才や弁説も度々褒(ほ)めてあったが、それよりも神学者アドルフ・ハルナックの事業や勢力がどんなものだと云うことを、繰り返してお父うさんに書いてよこしたのが、どうも特別な意味のある事らしく、帰って顔を見て、土産話(みやげばなし)にするのが待ち遠いので、手紙でお父うさんに飲み込ませたいとでも云うような熱心が文章の間に見えていた。殊(こと)に大学の三百年祭の事を知らせてよこした時なんぞは、秀麿はハルナックをこの目覚ましい祭の中心人物として書いて、ウィルヘルム第二世とハルナックとの君臣の間柄は、人主が学者を信用し、学者が献身的態度を以(もっ)て学術界に貢献しながら、同時に君国の用をなすと云う方面から見ると、模範的だと云って、ハルナックが事業の根柢(こんてい)をはっきりさせる為めに、とうとう父テオドジウスの事にまで溯(さかのぼ)って、精(くわ)しく新教神学発展の跡を辿(たど)って述べていた。

こんな感じでハルナックについてしばらく述べられていきます。