ストア派のホメロス
実質的に(実質的にというのはホメロスの時代にはまだストア派がなかったからである)ストア派哲学者たちのボスはホメロスである*1。
ただしこれについては古代から同じような意見があるようです。キケローの『神々の本性について』では、エピクロス主義者の話者がストア主義を批判する箇所で次のように書かれています。
以上が〔クリューシッポスの〕『神々の本性について』第1巻の内容である。
第2巻において彼は、オルペウス、ムーサイオス、ヘーシオドス、ホメーロスの神話を改変し、第1巻で不死の神々について語った内容と一致するように手を加え、(いまわたしたちが扱っている)これらの問題を夢にも考えたことのない古代の詩人たちでさえ、まるでストア派に属するかのような印象を与えている。(キケロー、『神々の本性について』、第1巻第41節。山下太郎訳。)
ただしこの点についてセネカは懐疑的。
というのは、彼らはホメーロスをさまざまな哲学諸派の徒と見なしているからだ。すなわち、時にはストア派の徒として(中略)、時にはエピクーロス派の徒として(中略)、時にはペリパトス派の徒として(中略)、時にはアカデーメイア派の徒として(中略)見なす。
明らかにホメーロスには、これらのどれもあてはまらない、すべてがあてはまるというからには。実際、それらは互いに矛盾対立しているのだから。(セネカ、『倫理書簡集』、第88書簡第5節。大芝芳弘訳。)
しかしリプシウスによるとストア派とみなせるのは何もホメロスだけではないそうです。ソフォクレスもデモクリトスもストア派だそうで。普通はプラトン主義者と見なされているフィロンもストア派。そもそもプラトン自身がストア派的なところがあると。
ローマではマルクス・アウレリウス・アントニヌスはもちろんのこと、小プリニウス、タキトゥスもストア派。キリスト教教父の中ではアルノビウスとテリトゥリアヌス(!)が「気質の点で ingenio」ストア派と見なせるそうです。
もはやなんでもありですね。しかし期待していたヘルメス・トリスメギストスはリストに入っておらず…。