セネカ『自然論集』と神学

INWOOD : READING SENECA

INWOOD : READING SENECA

 この本に収録されている"God and Human Knowledge in Seneca's Natural Questions", 157-200を読みました。prokoptonさんによれば、著者の「Inwoodはストア派研究の革新に寄与したEthics and Human Action in Early Stoicism (Oxford UP, 1985)で知られるヘレニズム哲学研究の第一人者」らしいです(参照)。

 特定の議論に焦点を絞って論じるのではなく、セネカの著作に現れる議論を順番に検討していく手法がとられています。その際には何か新たな主張が展開されるということはなく、基本的にセネカの著作を要約することに終始します。率直に言って、40ページ強もかけて論述を行っているにしては中身が乏しいと感じました。あえて本論文を評価するなら、新しく提示され定説となりつつある『自然論集』の配列案に沿ってセネカの議論を吟味した点にあるのだと思います。

 著者の議論のもう一つの特徴は、『自然論集』に見られる認識論にプラトン主義の影響を想定しない点です。ここで否定されているのはDoniniという研究者が「不可能な折衷主義:セネカと中期プラトン主義」という論文で提示した見解です。プラトン主義の影響について否定的であるという点で先日紹介したAlgraの論文と共通するものがあります(参照)。

 プラトン主義についてどう判断するにせよ、より論点を絞り、何らかの哲学的伝統に関係させるような記述を心がけないと面白い論文にはならないですね。