北村 – おネエと女とフリークス

  • 北村紗衣、「おネエと女とフリークス - 『お気に召すまま』と『ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ』」、『比較文学・文化論集』、26 (2009年)、26-44頁。

 著者から雑誌ごといただきました。ありがとうございます。

 表題にある二つの芝居で、どうして女性の観客たちが女装した男優に熱狂するのかを分析した論考です。結論としては、女装した男優たちの演技に舞台上で現れる違和感が、女性という性に期待される役割と自身の身体とのあいだに女性たちが感じている違和感の再現となっているため、男優たちの演技は女性たちの支持を得るということになっています。

 とりあえず著者の言うことを信じるならば、本論文は試みとしてかなり野心的なもののようです。演劇研究の分野では多くの女性が熱狂するような題材は(宝塚を除いて)あまり分析の対象になっておらず、またそもそも観客としての女性に着目した研究自体が少ないとのことなので。というわけで、演劇やその研究に関心のある人はぜひ一読することをお勧めします。

 私がよかったなと思うのは序文です。坂口安吾の印象的な引用からはじまり、先行研究の分析を経て問題設定に至るまでの流れは、学術論文の見本のようだと思いました。いつも無味乾燥な序文を書いてしまう私としては、こういう書き出しを見習いたいところです。序文については、注の6と7も良かったと思います。演劇の分野でのフェミニスト批評に関係する文献が多くあげられており、関心がある人にとっては便利な一覧になっていると思われます。

 演劇での演技やセリフについての分析についてはいろいろと意見があるでしょうが、それは皆さんがお読みになってからのお楽しみということで。

取り上げられている芝居

  • http://blog.e-get.jp/ayli/
  • ニッポン放送EVENT -ニッポン放送のイベント情報-
    • 論文で挙げられているURLには行かないほうがいいです。[複数の方が誤解されたようなので注記]「論文で挙げられているURLには行かないほうがいいです」というのは、注の30で挙げられているURL先がすでに芝居とはほとんど関係がない広告サイトに変わってしまっているから行かないほうがよいということです。