ラテン世界でのガザーリー受容について

 こちらの記事で紹介したデュエムガザーリーアヴィセンナと同種の流出論を支持していたと書いていました。しかし他のものを読むとまさにアヴィセンナの流出論こそガザーリーが『哲学者たちの矛盾』で攻撃した学説に他ならないとあります。実際に『矛盾』を読むと確かにそう書いてあります。

 これはどういうことなの?と思っていたら中西さんが教えてくれました。

ガザーリーは『〜の矛盾』の前に『〜の意図』という著作を書いていて、これはアヴィセンナの『知識の書』というペルシア語著作をアラビア語に翻案したようなものなんですが、たしかラテン語訳されたのは意図の方だけだったので、西洋ではガザーリーは哲学者の1人として知られるようになってしまったんだそうですよ。だからデュエムも矛盾の方は見てないんじゃないですかね*1

なるほど!確かに『ケンブリッジ版アラビア哲学必携』を見てみると『矛盾』はラテン語訳されず『意図』の方だけがされていますね。もちろんアヴェロエスの『矛盾の矛盾』の中にガザーリーの『矛盾』はあらかた収録されてしまっているので、厳密にいえばラテン語訳がなかったとは言えないのですが。

 どちらにせよデュエムの解説の意味が分かってよかったです。あとスカリゲルもやはりデュエムと同じくガザーリーに流出論を帰しているように見えます。

 なおガザーリーの著作を読んだのは相も変わらずマルムラによる英語訳を通してです。

The Incoherence of the Philosophers (Brigham Young University - Islamic Translation Series)

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The Cambridge Companion to Arabic Philosophy (Cambridge Companions to Philosophy)

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