アヴィセンナの発生論の基本構図

 アヴィセンナの発生論、とりわけ人間の発生について、『医学典範』と『治癒』「動物論」の記述から基本的な構図を抽出すると以下のようになると思われます。

  • 形成力(virtus informativa)
    • 父から(精液の中にある)
    • 受胎後6日、ないしは7日後に消滅
    • 心臓を形成(少なくとも『治癒』によれば)
  • 栄養摂取霊魂
    • 父から(精液の中にある)
    • 受胎後精液が固まると、その精液は霊魂を有するようになる。この霊魂は栄養摂取霊魂
    • 諸器官を完成させるために動く
    • 気質(complexio)が一定の状態に達すると、子供に固有の栄養摂取霊魂に取ってかわられる
  • 感覚的霊魂と理性的霊魂
    • 心臓と脳が判別可能になると、それらに結合される
    • 最初に感覚的霊魂が結合し、続いて理性的霊魂が結合するということはない(もしそうだとすると、動物から人間へ種が変化したことになるから)
    • これらを与えるのは形相付与者(だと思われる)
  • 天の熱
    • 天から来る
    • 天体の力と類比的な力を持つ
    • 精液の中で精気によって運ばれている
    • おそらく精液の中の形成力と栄養摂取能力がこの力を備えている
    • 物体を天体と似たものにすることによって命を受容することを可能にする

この理解の問題点

 アヴェロエスは『動物論中注解』のなかで、アヴィセンナにとって形成力とは栄養摂取霊魂だったと述べている。アヴェロエスによるこの解釈は、形成力と栄養摂取霊魂を分ける上のような理解と衝突するように思われる。

この力をガレノスは形成的と呼んでいる。これはアヴィセンナが考えたような栄養摂取霊魂ではない(Hanc equidem virtutem appellat Galenus informativam: et non est anima nutritiva: ut imaginatus est Avicenna)。