アヴェロエスにおける第一の動者 Twetten, "Averroes' Prime Mover Argument" #1

  • David Twetten, "Averroes' Prime Mover Argument," in Averroes et les averroĩsmes juif et latin, ed. J.-B. Brenet (Turnhout: Brepols, 2007), 9-75.

 アヴェロエスによる天球の回転の原因論を扱った大論文です。独創的であるものの非常に手ごわい論文です。まずは前半部分をまとめます(9–27)。アリストテレスによる第一の不動の動者の存在証明といえば、次のようなものがすぐに思い浮かびます。何かが動かされるとき何かそれとは別のものに動かされていなくてはならない。動かされていることについて無限後退に陥ってはならない。だから最初に動かされないけれど動かすものがいて、これが第一の不動の動者である。これは伝統的な解釈であり、たとえばトマス・アクィナスはこうやって論証された不動の動者を神と同一視することで、神の存在証明を行っています。

 しかしアリストテレス最大の註釈者であるアヴェロエスは異なる解釈をとっていました。この異なる解釈を検証することは、アヴェロエス宇宙論上の難解個所を解釈する上で役立つだけでなく、伝統的な解釈ではうまく説明できないような文言がアリストテレスにはあることを明るみに出してくれます。アヴェロエスは、無限後退を回避するために導入されるべきなのは不動の動者ではなく、自らを動かすところの動者(a self-mover; movetur per se)であるとみなします。なぜか。何かが自らの外部にある何かを作用因として動かす場合、それ自体も動かねばなりません。この最後の動きもまた外部にある何かによってなされる場合、無限後退が生じます。これを避けるためには、最後に自らによって自らを動かすことで外部にある他のものを動かすものがなければなりません。

 アヴェロエスはこの自ら動く動者を天球であるとします。諸天球がまず自ら動くことでこの世界に運動をもたらしているというわけです。しかしアリストテレスは『自然学』で運動の起源はそれ自体としては不動の何かにあると言っていなかったでしょうか。

動かされるものどもの原理となるのは、動かされるものどもの範囲内にこれを求める限りでは、それ自身を動かすものであるが、[さらに遡って]すべてにわたってその原理を求めれば、動かされえないものがこれである…。(第8巻第6書、出、岩崎訳)

天球は動くのでこの「動かされえないもの」の資格はないのではないか。この疑問に対しアヴェロエスは、ここでアリストテレスがいう「動かされえないもの」とは天球に宿るところの霊魂であると主張しました。無限後退を避けるために自らを動かす動者(天球)に至り、さらにその自発的運動を可能ならしめる霊魂があり、これは動かされえないものである。

 まだ問題があります。ここからの議論はあまりにこみいっていて、よく理解できないのですけど、およそ次のようなことが言われているように思えます。アリストテレスは第一の動者は付帯的にすら動かないと言っています。たとえば動物の霊魂が動物の身体を動かすとき、この霊魂は自体的には動かずともそれが宿っている身体が動くことで付帯的に動きます。こういうことは天ではありえないというのです。すると天球に霊魂を認め、それを第一の動者としていいのか。しかしそもそもアヴェロエスが想定する天球の霊魂が天球自体と持つ関係は、動物の霊魂がその身体と持つ関係とは異なっています。動物の霊魂は動物の身体という質料を現実態化している形相です。しかし天球の霊魂は天球自体を現実態化していません。なぜならもし天が質料と形相の結合体なら必然的に消滅へと向かうからです。よって天球の霊魂は天球に内在的に結合しているのではなく、したがって天球が動いたからといって動かされません。ここから天球の霊魂が自らが引き起こす運動にともなって付帯的に動くことは否定されます。

 しかし(ここのこだわりの意味をとるのが難しいのですけど[後述の天の知性を確保するため?])アヴェロエスは天球の霊魂が、ある意味では付帯的に動かされることをなんとしても確保しようとします。ではどういう意味でそれは付帯的に動くのか。彼が言うには、ある天球がその外側にある別の天球の運動の結果として、それ自身から出たのとは違う種類の運動を行うとき、その運動に伴って天球の霊魂が付帯的に動くことは、アリストテレスの文言からは排除されない。ある天球が外部の天球からある特殊な動きをもたらされるとき、天球の霊魂と天球の動きとの関係が、それら二者以外のものを根拠に変更される。これが天球の霊魂が「別のものを理由として」付帯的に動くということだとアヴェロエスは言います。(続く)