ゆとり

  • 鈴木晃仁「ゆとりをめぐって」鈴木編『「ゆとり」と生命をめぐって』慶応義塾大学出版会、2011年、5–18頁。

「ゆとり」をキーワードにしたオムニバス形式の授業というのは、学問の世界で鍛えられた道具で様々な現象に切り込む多様性とは反対の方向に向かうのだろう。すなわち、多様な学問の世界の中に散らばっていて体系化されていない現象を探して集め、それらにひとつのまとまりを見つけていくという方向だろう。言葉を変えると、いろいろな学問が明らかにした個別の状況で、「これは『ゆとり』ではないか」という私たちの実感できる場を見つけていく、知的な博物誌のように進むのだろう。この「ゆとりの博物誌」は、私たちの「ゆとり」の感覚を広げることであると同時に、日常感覚から出発して様々な学問の間に、新しいつながりを作る視点を作ることにもなるだろう。

 慶応大学では極東証券寄付講座として毎年「生命の教養学」というオムニバス形式の講義が行われています。その成果は毎年書籍として出版されることになっており、ここで取り上げた『「ゆとり」と生命をめぐって』はその6冊目になります。月末には7冊目である『【対話】異形』が出版される予定です。

 冒頭の引用は編者をつとめる鈴木晃仁さん(医学史)による巻頭の文章からとりました。オムニバス形式という授業のキーワードとして「ゆとり」という単語を選ぶことの意味を、万葉の歌を素材にしたゆとりという言葉の字義・語源の考察からカンギレムの生命理解に話を発展させることで解説するというエッセイです。いいですね、「ゆとりの博物誌」って。

 最初の長谷川眞理子さんの論考では、人間の問題解決の方法には大きく分けてコントロール型とネットワーク型の2つがあり、後者の型にゆとりを実感できる場を見出そうとしています。

 まだ全体を読めたわけではないですけど、興味のある方は鈴木さんの序文だけでも目を通してみてください。考えのヒントがみつかるかも。

【対話】異形: 生命の教養学? (慶應義塾大学教養研究センター極東証券寄附講座)

【対話】異形: 生命の教養学? (慶應義塾大学教養研究センター極東証券寄附講座)