ライプニッツと顕微鏡の科学 スミス『神的機械』5章

Divine Machines: Leibniz and the Sciences of Life

Divine Machines: Leibniz and the Sciences of Life

 ライプニッツの生命の哲学を扱う最新の研究から、予先形成(preformaion)の学説を扱った部分を読みました(165–96頁)。だいたいのことは『生命の原理と形成的自然についての考察』に書かれていることで、そのため以下の記事で私がまとめたことと大差はありません。

 それ以外に著者が丁寧に論じていることは、ライプニッツの予先形成の理論と当時の顕微鏡を用いた研究の関係です。レーウェンフックによる精子の発見は、受精以前にすでに有機体が極めて微小な形で存在しているというライプニッツの考えを経験的に裏付ける有力な証拠となりました。ライプニッツが1776年にレーウェンフックに会っているので、この時精子の発見について直接聞いていたのかもしれません。

 しかし精子が小さな人間なら受精に至らなかった大量の精子の存在は大量の人間が無駄使いされていることを意味してしまいます。この難点を回避するためライプニッツはスワンメルダムによる昆虫の変体の研究成果を援用します。イモムシが蝶になるように精子は子宮の中で人間に変化する。この変化が起きた段階ではじめて理性的能力が発揮されるようになり人間と呼べるようになる。しかしイモムシが死んで蝶になるのではないように、精子が死んで人間となるわけではない。よって発生・消滅は生じないという大原則は守られる、というわけです。

 もう一つ。予先形成の理論を正当化する際のライプニッツのロジックがレーウェンフックが精子の存在を説くときに用いるものと近いということが強調されます。両者とも非物質的なものが物質に働きかけたり、物質的なものが非物質的なものに働きかけるのを否定します。またマルブランシュ流の機会原因論もしりぞけます。その上で最後に残った選択肢として原初に創造された生命原理を想定することになります。