- 「ルネサンスの自然誌の発展における図像の役割」Sachiko Kusukawa, "The Role of Images in the Development of Renaissance Natural History," Archives of Natural History 38 (2011): 189–213.
1450年から1650年のあいだの自然誌の発展過程で図像が果たした役割について調べた諸研究を通覧するエッセイレビューです。ルネサンス期を特徴づける古代への憧憬は、自然誌の研究の基礎を提供していました。ディオスコリデス(ca. 40–90)は植物を自らの目で見ることの重要性を強調し、ガレノスは理性と経験を組み合わせることの必要性をといていました。彼の自然探求の方法がルネサンス期の学者たちに自然誌研究のモデルを与えます。
その際に図像が大きな役割を果たします。たとえばフックスは、当時のドイツで広く流通していた植物の絵とディオスコリデスの記述を比較することで、両者が同じ植物について記述していることを突きとめました。こうして彼はその植物について知られている事実で、ディオスコリデスの記述を補うということを行いました。
フックスの絵も興味深い特徴を持っていました。それはある植物の特定の個体を描いたものではありませんでした。たとえば傷とか虫食いのあととかは排除され、理想的な状態のものが描かれていました。それだけでなく、異なる成長段階が一枚の絵に描かれたり、異なる色をもつ個体が組み合わされて一枚の絵の中におさめられていました。これは絵の数を減らそうというコスト上の配慮もあったと思われます。しかし科学的知識が満たすべき基準についての当時の考え方にもよっていました。アリストテレスは知識というものは記述する対象群に普遍的に妥当しなければならないと考えていたのです。図像は科学研究にとって不可欠な自然についての一般的・普遍的を提供するよう製作されていました。
自然誌の研究は自然界のものの情報を集めることからはじまります。実際ナチュラリストたちは必死になって情報を集めていました。たとえばゲスナーは彼の文通相手たちに、新奇なものについて情報を即座に送ってくれれば彼らの名前にちなんだ名前を植物につけると約束しています。このような情報収集の過程で図像は必要不可欠でした。それは入手することのできない事物の姿を再現してくれました。また動植物は死んでしまうと変色したり腐ったりして元の状態を留めないため、生きていた時の状態がとどめおかれている図像の入手は必須でした。
多くのナチュラリストたちが自分では絵を描けなかったことは、様々な問題を引き起こしました。彼らは図像を製作する画家たちが細部を省いて誤解を与えるような要素を付け加えてしまうことに不満を覚え、製作過程を厳しく監視しました。また印刷の結果出てくる図版は元の絵の左右を反転させてものになるので、この点を考慮しそこねると例えば貝のうずまきの描写にとって致命的な事態が生じました。印刷業者がコストを抑えようとして、図像の数を制限することもありましたし、植字工が絵の場所を間違えたりしもしました。
図像表現はガリレオに代表されるような自然の量化と幾何学化を志向する新しい科学の要請に見合わないと、リンチェイアカデミーの創始者によって考えられていたことは事実です。しかし例えばロンドン王立協会が推進していた新しい自然誌のプロジェクトにとって図像が不可欠なものとみなされていたことは、より深く初期近代のアカデミーにおける図像使用の実態を理解する必要があることを示しています。
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