身体機能を可視化する 本間「デカルト派生理学と図像表象」

科学思想史

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 17世紀のデカルト派生理学における図像使用を検証した論文です。16世紀の解剖学図像を扱った楠川『自然という書物を描く』の続編として読むことができます。「大多数の書物はその幾行かを読み、その図像を観れば、全部判ってしまうのである」(325–326ページ)。この断言に呼応するかのように、デカルトはその科学著作のうちに多数の図版を収録しています。『方法序説及び三試論』にふくまれる図像には二つの類型があります。一つは描かれたものを例示する記述的な図像です。もう一つはモデルとして機能する図像です。デカルトは自然現象をなんらかのモデルになぞらえ、そのモデルとなっている事象を図を使って解説するということを頻繁に行いました。

 デカルトは彼の生理学を図入りで解説する書物を生前刊行しませんでした。したがってデカルトの原理にもとづいた生理学理論を図像を用いて解説するという役目はデカルト主義者たちにまかされることになります。とくに従来の生理学で霊魂の能力に帰され可視化できなかった機能が、デカルト流の生理学では粒子の形・配置・運動で説明されて可視化可能な領域となっていました。ここに新たな図像利用のチャンスがうまれます。

 レギウスやテオドール・クラーネンの著作、およびデカルトの『人間論』のフランス語版とラテン語版には豊富な図像がふくまれていました。それぞれの用いる図像には特徴があります。『人間論』のフランス語版がおもにモデル的図像をふくむのにたいして、ラテン語版は解剖学的な記述的図像もまた多く収録しています。レギウスはカルダーノ以降の伝統にならい、自然にみられる原理を機械図像を使って例示しています。また彼はある器官の機能過程を分解し、その段階ごとに図像を用意するというアニメーション的な技法を導入しました。一方クラーネンはときにみずからの現象理解の正しさを証明してくれる実験のやり方を図像を使って解説し、それを自宅で行うことを読者にすすめています。

 新たな生理学の誕生にあわせて、それを効果的に伝達するための新たな図像表現の方法が多様に模索されていたことがわかります。

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