科学革命の舞台　プリンシペ『科学革命』#1

Very Short Introductions: Scientific Revolution No.266

作者: Lawrence M. Principe
出版社/メーカー: Oxford University Press (Japan) Ltd.
発売日: 2011/05/19
メディア: ペーパーバック
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Lawrence M. Principe, The Scientific Revolution (Oxford: Oxford University Press, 2011), 1–20.

　科学革命に関する最新の概説書です。著者はロバート・ボイルの錬金術研究『野心的アデプト』で著名なLaurence Principeです。

　1500年から1700年までの科学革命期は中世からの連続と変化がともに見られる時代ととらえることができます。第1章ではその舞台を用意したとされるいくつかのポイントが列挙されています。11世紀よりはじまった温暖な気候は欧州の人口を増加させ、都市を拡大させました。思索と学問へ打ち込む時間が生まれことによって生じた知への渇望は、アラビア語で書かれた先端的な著作（ガレノス、エウクレイデス、プトレマイオス、アリストテレス）の著作のラテン語訳をもたらし、このうちとりわけアリストテレスの著作は新たに誕生した大学のカリキュラムに取りこまれスコラ学の基礎を提供します。

　しかし温暖な気候が終わりを告げた14世紀には飢饉が発生し、なお悪いことに黒死病（ペスト）が人口の約半分を奪いました。この危機のさなかイタリアで人文主義が芽生えます。彼らは自らを古代の復興者とみなし、古代以降の時代を暗黒の中世として見下しました。さらにビザンツとの接触（と同国の滅亡）によってギリシア語を移民が流入することでギリシア語研究がさかえます。その結果、大学外で活動する人文主義者たちにより数多くの古代著作が再発見され（ルクレティウス『事物の本性について』など）、ラテン語に翻訳されることになりました（プラトン）。

　人文主義によるテキストへの関心を下支えしたのが1450年頃に発明された活版印刷です。これにより書物の作成は容易になり、その量は増大し、図版の複製が可能となりました。またこの新しい技術により新たに発見された土地（特にアメリカ大陸）からもたらされる大量の情報が効率よく拡散し、自然世界についての旧来の考えへの再考をうながしました。新大陸への航海の隆盛は新たな航海技術、新たな地図作成法、新たな造船技術を発展させています。

　1517年よりはじまった宗教改革によってキリスト教世界は分裂します。プロテスタントの大学では中世以来の教育内容や手法から比較的独立したかたちで、カリキュラムに新しい主題やアプローチを導入することができました。カトリックサイドでは対抗宗教改革が起こり、トレント公会議（1545–63）では司祭への教育を改革することが提唱されます。この改革に最も敏感に反応したのが新たに設立されたイエズス会でした。イエズス会は数学教育を重視する（1700年までの数学教授職の半数以上がイエズス会士）と同時に、各地に派遣した宣教師から組織的に情報を集め蓄積していました。

　これら中世以来の大学制度、人文主義、印刷技術、航海による新大陸の発見、宗教改革を土台に科学革命期がはじまることになります。