つながれた世界 プリンシペ『科学革命』#2

Very Short Introductions: Scientific Revolution No.266

Very Short Introductions: Scientific Revolution No.266

  • Lawrence M. Principe, The Scientific Revolution (Oxford: Oxford University Press, 2011), 21–38.

 「つながれた世界 the connected world」と題された第2章では1500年から1700年まで(初期近代)の自然探求の前提が語られます。専門化が進みしばしば分野ごとの連関性が把握しにくくなっている現代科学とは異なり、この時代の自然探求では自然のあらゆる部分が相互に関連し合ったものとしてとらえられていました。その連環は自然世界だけでなく、人間や神をも含む包括的なものでした。このような世界観は一つには古代末期のプラトン主義に端を発する存在の階梯の理論を根拠にしていました。そこでは頂点の神から霊的な存在に下り、人間を経て物質世界へと降りていくという上下を貫く存在の階層構造が想定されていました。ルネサンス期に翻訳されたヘルメス文書を後ろ盾に、当時の思想家はこの階梯のなかに人間を位置づけ、さらに人間はそれを上の方向に登っていけるのだと考えていました。これと関連する考え方にマクロコスモとミクロコスモスの観念があります。これは宇宙全体の構造が人体の構造と照応関係を持っているとするもので、当時の自然探求や医療の実践を深く規定していました。

 この連結された世界像を後押ししたもう一つの重要な要素はアリストテレスの学問観でした。彼は事物を知るとはその原因を知ることあると考え、その原因を4つに分類しています。この4原因のうち質料因と目的因は、あるものが何によって出現して、なんのためにあるのかということを説明するものであるため、必然的に当該の事物をそれ以外のものとの関連で把握することを促しました。特に目的因は容易に神の摂理の観念と結びつけられました。

 連結された世界像が最も強くあらわれている自然探求の領域が自然魔術でした。そこでは事物のあいだにある明白な関係(火がものを熱くする)でなく、一見その原因が不明な関係(植物のあるものは太陽の方を向く)もまた明らかにし、それを実践につなげることが目指されました。このような関係は観察や読書によって学ばれるだけでなく、事物のあいだに認められる類似を手がかりに発見されます。たとえばある種の植物は太陽の方を向くのだが、ほら、よく見てくれ、この植物がつける実は太陽に似ているじゃないか、という具合です。このようなアナロジーにもとづく探求は事物が相互に何らかの共感力によって結びついているという世界観のもとでは非常に強力な分析の道具であるとみなされていました。こうして発見された事物の関係をもとにたとえば土星的なメランコリックな気分をやわらげるために、太陽に関連する黄金や黄色の服を着ようということが提唱されています。

 このような事物のあいだの共感力はマクロコスモス、ミクロコスモスの観念によっても説明されました。人間の体が知性の指令を動物精気をつかって四肢につたえるように、自然世界の心臓たる太陽は世界に拡散している精気を用いて、個々の事物に熱を分配して何らかの現象を生じさせるのだとされました。

 つながった世界は神ともつながっていることから、自然の探求は宗教的な意味ももちました。神が書いた自然という書物を探求することで、人間は神の存在に気がつき、神についての知識を得ることができるとされました。だからこそロバート・ボイルは自然哲学者を「自然の司祭」と呼んだわけです。

関連文献

つながった世界
  • David C. Lindberg and Robert S. Westman, Reappraisals of the Scientific Revolution (Cambridge: Cambridge University Press, 1990).
    • 本書に収録された Brian Copenhaver, "Natural Magic, Hermetism, and Occultism in Early Modern Science," 261–301.
魔術について
  • John Henry, "The Fragmentation of Renaissance Occultism and the Decline of Magic," History of Science 46 (2008): 1–48.

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 本書に収録された菊地原洋平「記号の詩学パラケルススにおける『徴』の理論」、9-38頁。