古代末期の哲学とアラブ・イスラム哲学

The Cambridge History of Philosophy in Late Antiquity 2 Volume Hardback Set (2 Volume Set)

The Cambridge History of Philosophy in Late Antiquity 2 Volume Hardback Set (2 Volume Set)

Cristina D'Ancona, "The Origins of Islamic Philosophy," in The Cambridge History of Philosophy in Late Antiquity, ed. Lloyd P. Gerson (Cambridge: Cambridge University Press, 2010), 869–93.

 アラブ・イスラム哲学を理解するためには、帝政期に主としてアフロディシアスのアレクサンドロスプロティノスによってアリストテレスプラトンの思想にもたらされた変革を考慮しなければならないと主張する論考です。アッバース朝のカリフ周辺で形成されていた哲学研究運動の中心にいたのはキンディー(866年頃没)でした。彼は古代より続く知の到達点がイスラムであるという認識のもと、アリストテレスで完成された哲学は信仰の教えに理性的証明を与えるものだとみなしました。だからこそたとえ異なる地域で異なる言語によってなされた営みであっても哲学を学ばなければならない。彼によればアリストテレスプラトンとまったく同じように、(ざっくばらんにいって)イデアの領域とこの世的領域を分けていて、しかもこの2分割された世界はともに神である一者に依存し、そこから順に知性、霊魂と下降して最後にこの生成消滅に支配された世界に至るという垂直的階層構造をなしているとみなしていました。これはプロティノスの新プラトン主義によるプラトン解釈をアリストテレスに帰すものです。この階層構造化された世界観にアリストテレスを適合させることを可能にしたのがアレクサンドロスの学説でした。このギリシア哲学者は、アリストテレスの世界観と神の摂理の観念を両立させることを試み、神(第一の不動の動者)への愛によって動く諸天球の運動がいかに月下の世界の事象を司っているかについての理論を組み上げます。この理論により月より上の世界と月下の世界の関係性が明らかとなり、新プラトン主義流の階層的世界像にアリストテレスを組み入れることが可能となります。こうして構築された「アリストテレス的」世界観を、アラブ・イスラム哲学は、アレクサンドロスプロティノスによるアリストテレスプラトン解釈から受け継いだことになります。