存在の連鎖 その2 Mahoney, "Metaphysical Foundations"

Philosophies of Existence: Ancient and Mediaeval

Philosophies of Existence: Ancient and Mediaeval

  • E. P. Mahoney, "Metaphysical Foundations of the Hierarchy of Being according to Some Late Medieval and Renaissance Philosophers," in Philosophies of Existence Ancient and Medieval, ed. Parviz Morewedge (New York: Fordham University Press, 1982), 165-257.

 存在が階層構造をなしているという理論の13世紀後半以降の展開を追った部分です(174–186)。ガンのヘンリクス(ca. 1217–93)は神は万物の尺度であり、他の存在者は神に与ることで存在するという伝統的観念を受け継いでいます。存在者は神に近づけば近づくほど完全性の度合いが高まり、反対に離れれば離れるほど度合いが低下します。ローマのアエギディウス(ca. 1243/7–1316)も神はそれに万物が与るところの尺度であると考えました。しかしこれは数字の1が他のすべての数の尺度であるというのと同じ意味で考えてはなりません。なぜなら1は他の数字と同じ類に属すのにたいして、神は他の存在者と同類ではないからです(神の超越性の確保)。階層構造の成り立ちについてアエギディウスは、すべての存在者は神からすると不完全であり、この不完全さの違いが種の違いであると考えています。フォンテーヌのゴッドフリー(ca. 1250–1306/9)は存在の秩序の問題に確かな答えを与えることはできないとしながらも、伝統的な階層理論を採用しました。ただし彼もまた神の超越性を確保するため神と被造物のあいだの距離は無限であるとしています。もうひとつの特徴は存在と本質の区別を否定する彼の学説からくるものでした。彼は天使が存在と本質からなるという伝統的考え方を否定し、それは可能態と現実態からなるといました。ただしこの可能態と現実態の区別も現実に即したものではなく、思考(ratio)に即したものだという条件がふされます。

 14世紀の思想家のなかでもっとも影響力があったのはドゥンス・スコトゥス(1265/66–1308)とジャンダンのジャン(1280s–1328)です。スコトゥスは階層構造の理論を受け継ぎながらも、神以外の存在が可能態と現実態の複合からなるという考えを否定しました。彼によれば、有限の存在の不完全さというのは可能態の混合ではなく、むしろモグラが視力を欠いているように、何らかの完全性の欠如があるものとしてとらえられなければなりません。すべての事物は何らの不完全性もない神を起点に「本質的秩序 ordo essentialis」をなしているとされます。スコトゥスの理論のもうひとつの特徴は、神と対極に位置する階層の位置に非存在をおかなかったことにあります。これは彼が偽ディオニシオスの理論を警戒していたからかもしれません。

 一方ジャンダンのジャンは神は万物の外的な尺度であり、それは諸事物の作用因であり目的因であるからだとしました。しかし彼は神が作用因であるという言明に条件をつけます。なるほど確かに信仰が教える真理では、神はすべてを無から創造した。しかし哲学の領域に留まるならば、神は永遠の事物(たとえば天球を動かす知性)を字義通りの意味で創造したとはいえない。むしろ神がそれらの事物の存在の根拠となり、その存続を許しているという点をもって、類似的に(secundum similitudinem)神は世界の作用因であるとみなしうるに過ぎない。以上の立論を彼はアヴェロエスに依拠して行いました。彼の理論はまた事物が神に与るという見解を否定するという特徴を持っていました。

 14世紀にはオッカムのウィリアム(ca. 1287–1347)、ジャン・ビュリダン(1295/1300–1358/61)、ザクセンのアルベルトゥス(ca. 1316–90)のように階層理論を流出説を想起させるとして拒否した者たちもいました。また形相の強弱の理論を階層構造の理論に適用する試みも現れました。