20世紀前半の歴史学における中世とルネサンス Ferguson, The Renaissance in Historical Thought, ch. 11

The Renaissance in Historical Thought: Five Centuries of Interpretation (Rsart: Renaissance Society of America Reprint Text Series)

The Renaissance in Historical Thought: Five Centuries of Interpretation (Rsart: Renaissance Society of America Reprint Text Series)

  • Wallace K. Ferguson, The Renaissance in Historical Thought: Five Centuries of Interpretation (Toronto: University of Toronto Press, 2006; orig. pub. 1948), 329–85.

  ルネサンス概念をめぐる論争を通覧した基本書から、「中世学者の反乱 中世の継続として解釈されたルネサンス」と題された第11章を読みました。20世紀にはいってアメリカを中心に中世史、とりわけ中世の文化史・思想史研究が盛んになると、中世とルネサンスのあいだの境界線を薄めたり消し去ったりすることを志向する研究が現れます。それはハスキンズの『12世紀ルネサンス』であったり、信仰の時代がまた古代学芸が栄えた時代であったことに喜びを見出したカトリックの歴史家の諸著作であったりします。また19世紀後半にはじまる新トマス主義は長らく無知の代名詞であったスコラ学を再評価して、(現代の非理性的な大衆運動とは対照的な)理性にもとづく秩序だった思考体系をそこに見出しました。ルネサンスのとらえかたも、そこに中世的要素(特にカトリック信仰)が根強く存続していたことが強調されるようになりました。

 以上のような立場をさらに強化して、ルネサンスという時代には独自性というものはなく、それは中世の終わりとして理解すべきであるという研究も現れました。ホイジンガルネサンスという時期の存在を否定してこそいなかったものの、彼は実質的にはその時代をあらたな時代のはじまりというより、古くからある中世の終点としてとらえていました。ルネサンスの存在を認めながらそれに否定的評価を下すことはカトリックの側から行われました。ジルソンはルネサンスというのは中世プラス人間の時代なのではなく、中世から神を抜いた時代だとしました。彼によれば神を手放すことでルネサンスは人間もまた失うという悲劇に陥ったのです。科学史家もルネサンスに否定的評価を下します。サートンによれば「哲学的、そして科学的な見地からは、それ[ルネサンス]は疑いようもなく後退であった」。ソーンダイクによれば人文主義者というのは、中世スコラ学が要求する厳密な学問的要請を避けて、文法学校の主題(つまりはラテン語)に専念するという安易な選択をした者たちということになります。