中世自然哲学概説 シーラ「創造と自然」
- 作者: A.S.マクグレイド,A.S. McGrade,川添信介
- 出版社/メーカー: 京都大学学術出版会
- 発売日: 2012/11/01
- メディア: 単行本
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中世では一貫して自然世界は神によって創造されたものと考えられていました。この被造物たる世界についての考察は、12世紀にはプラトンの『ティマイオス』、キケロの『神々の本性について』、聖書の「創世記」に依拠してなされていました。そこでは神に由来する規則性がまずは天上界に顕現し、それが月下界にまで届いているという法則的宇宙観がすでに見られます。アリストテレスが流入すると世界の個々の部分で発現している自然本性のあり方を、アリストテレスの著作をもとに論理的な分析によって探求することがおこなわれます。一般的に13世紀の自然哲学者たちは、自然哲学の諸原理は形而上学より演繹できると考え、それゆえ包括的で総合的な叙述を行いました。たいして14世紀では自然哲学の自律性が高まるなどし、よりアポステリオリな原理に依拠した分析的な手法がとられるようになります。
哲学は神学と密接に結びついており、たとえばアリストテレスの真空否定論にたいしては、神は論理的矛盾を含まない限りはいかなる現実をも現出させうる想定から、真空の存在が「想像に従って」認められました。しかし真空中での物体の運動はアリストテレスの理論にしたがえば速度が無限大となってしまいます。これは不可能です。この難点を回避するために、真空中であっても速度が無限とならないような運動論が生まれることになりました。またパンがキリストの身体になるという実体変化や、質料を有さないはずの天使が場所的に移動するという神学的要請が、量や運動の原因についての(アリストテレスには見られない)理論を導き出すことに寄与しました。こうして神学は自然哲学を変質させました。しかしここで見逃してはならないのは、その変質のために用いられた基本原理の大半が自然哲学に由来するものであったということです。神学と哲学とのあいだのこの複雑な結びつきを理解せねばなりません。
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