14世紀哲学における理性と信仰の分離 Leff, "The Fourteenth Century and the Decline of Scholasticism"

Heresy, Philosophy and Religion in the Medieval West (Variorum Collected Studies)

Heresy, Philosophy and Religion in the Medieval West (Variorum Collected Studies)

  • Gordon Leff, "The Fourteenth Century and the Decline of Scholasticism," Past and Present 9 (1957): 30–41, repr. in Heresy, Philosophy and Religion in the Medieval West (Aldershot: Ashgate, 2002).

 14世紀前半の哲学の特質を見極めようとする論文です。13世紀のスコラ学は理性と信仰の調和を目指していました。トマス・アクィナスによれば、信仰が教えることを理性は感覚からの合理的推論によって明確にすることができます。この結合にはすでに13世紀のあいだから疑義が呈されていたものの、両者の本格的分離がはじまるのはスコトゥスとオッカムの出現を待たねばなりません。スコトゥスは神の自由を極大化することで、そのあり方は人間の理性では理解できないものとしました。したがって不可知の神の意志と自然現象を結びつけることはできなくなります。オッカムは直感的知と抽象的な知を分け、個物の感覚と直接結びつく前者の知の範囲だけで、人間は理性によって確かな知を得ることができると論じました。そのため感覚と切り離された信仰の領域に理性によってアクセスすることはできなくなります。また彼は神の絶対的能力を強く認めることで、(スコトゥスと同じように)神や信仰の事柄を理性的に評価する余地を排除しました。こうして信仰と理性が切り離されることにより、議論の焦点となったのが恩寵と自由意志の問題でした。一般的にオッカムにしたがう論者たちは、善き行いを行うために恩寵が必要であるということを否定しました。また神の全知性と人間の自由意志は両立するのかという問題については、「未来」という理性に属する領域での思考の自律性を担保するために、神の知についての見解が修正されるということが起こりました。これらの論者に反対したBradwardineのような論者は逆に、すべての知の源泉を神と信仰にもとめることで、これまたやはり理性と信仰の調和という13世紀の目標からはそれていきます。こうして信仰の領域を理性から追放するか、理性を信仰に完全に従属させるかという立場の対立が14世紀前半に生まれました。これらのうちの前者はルネサンスと近代科学に、後者は宗教改革に接続することになります。