12世紀ルネサンス研究の動向

 ブルクハルトのルネサンス=近代の起源論に対して、「中世学者たちの反逆」を引き起こす狼煙をあげたのがハスキンズの『12世紀ルネサンス』(1927年)でした。ハスキンズが主張したのは、個人主義、世俗化、批判的歴史意識というブルクハルトが14世紀イタリアにみた諸要素(これが近代を構成する)が12世紀にすでに見られるということでした。このような12世紀を近代と類比的にとらえるハスキンズの方向性に対して、近年の研究は12世紀を近代とは異質な「他者」として理解しようとしています。しかしそれでもなお個人主義の起源(モリス『個人の発見』;しかしBynum, “Did the Twelfth Century Discover the Individual?”)や、哲学、法学、神学における理性の利用といったハスキンズが設定した問題系がいぜん研究者の議論を規定しています。とはいえハンキンズが不毛なものと切り捨てたスコラ哲学の果たした役割や、彼が見なかった俗語文化(とそのラテン語文化との相互作用)の存在という問題が、新たな12世紀研究の方向性として付け加えられていることも見のがせません。時代区分の問題については、12世紀ルネサンスをイタリアルネサンスと比較するよりもカロリングルネサンスと比較することが多くなっているようです。レビュー論文だけあって他にも雑多なことがいろいろと書かれています。文献リストとして手元においておいて損はないですね。

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