内的感覚の役割

Natural Philosophy Epitomised: Books 8-11 of Gregor Reisch's Philosophical pearl (1503)

Natural Philosophy Epitomised: Books 8-11 of Gregor Reisch's Philosophical pearl (1503)

  • A. R. Cunningham and Sachiko Kusukawa, trans., Natural Philosophy Epitomized: Books 8–11 of Gregor Reisch's Philosophical Pearl (1503) (Aldershot: Ashgate, 2010), 201–215.

 1503年に出されたカトリック系の哲学学説総覧書である『哲学的真珠』から、内的感覚を扱った部分を読みました。授業用にまとめました。訳語は適当に当てていますので注意して下さい。

 かつて議論したことを夢のなかで理解できたりするのはなぜなのでしょう。これができるのは、感覚したものをたとえそれが実際に感覚されていないときでも理解可能にしてくれるような内的感覚があるからです。内的感覚には五種類あります。共通感覚、想像的感覚、評価的感覚、空想的感覚、そして記憶的感覚です。共通感覚は感覚器官と繋がっていて、外界からの感覚形象を受容します。しかしそれは形象を長い間保持できないので、想像的感覚がそれを蓄えます。そこから形象が評価的感覚に送られ、そこで形象から意図が引き出されます。たとえば羊は狼の形象から敵意を引き出すというわけです。空想的感覚は受容した形象を組み合わせて新しい形象を生み出します。動物の場合、たとえば蜘蛛なら編むべき巣のイメージを決まって生み出す一方、人間の場合は、空想的感覚が持つ力に理性が備わっているため多様な用い方をすることができます。その結果空想の怪物のようなものを思い浮かべることができます。寝ているときに外界からの感覚がさえぎられたときに夢をみるのもこの空想的感覚の働きのためです。

 眠りというのは何らかの原因で精気が外部から内部へと引き寄せられると起こります。これにより精気と感覚器官との通路が遮断されて眠りが起こるというわけです。このあいだに夢を見るわけです。そのときに強い熱が感覚器官に来ると、それが弛緩して、寝ている間にも様々な感覚を感じるようになります。またその熱が運動を生み出す力を刺激することで寝ながら歩くということが起こります。夢の原因は精神(寝る前に考えていたことが夢になる)であったり、体液の状態であったり、体の部位の状態であったりします。また心身の外部の状況も夢のあり方に影響を与えます。神や天使が夢を利用してメッセージを伝えるということが確かなのは聖書から明らかです。しかし夢を予兆として解釈することには慎重でなくてはなりません。これもまた聖書で警告されていることです。

 最後に記憶について語られます。感覚形象の保持は想像的感覚によっても行われます。しかしそれはその形象が受容された時系列は無視した保全です。時系列を保全し、判断的感覚によって得られた意図をも含めて貯蔵するのが記憶的感覚の役割です。しかしこの形象が送り出されたり、混乱した状態になってしまうことがあり、このときに忘却や記憶違いが起こります。熱と乾の性質は記憶の保持には不適であり、若者と老人がものをよく憶えられないのはそのためです。