形相は熱 アリストテレス主義改革者としてのテレジオ

 ヒロさんのメールマガジンの最新号を読みました。ベルナルディノ・テレジオは、スコラ的アリストテレス主義を否定し、新しい種類の自然哲学を構想しようとした「ルネサンス自然主義者」の一人としてしばしば語られます。この論考は、彼の哲学を単純なアリストテレス主義からの離反としてではなく、むしろルネサンス期に台頭していたあるアリストテレス読解の道筋を推し進めたものとして理解しようとするものです。アリストテレスの『動物発生論』には、知性を備えた宇宙的な熱が、生命原理として動物の発生をつかさどると解釈できる箇所があります。この宇宙的な熱が、能動原理の数を縮減しようとするルネサンス期の自然哲学・医学の試みのなかで、自然の唯一の形成原理としてしばしば認められるようになりました。この考え方を補強するために呼び出されたのがヒポクラテスの『肉について』冒頭の文言です。「われわれが熱と呼ぶものは不滅であり、それは現在や未来にあるすべてのことがらを理解し、見聞きし、知っているということは私には自明であるように思われる」。形相を熱と読みかえるテレジオの学説もまた、これら『動物発生論』と『肉について』に依拠しながら、同時に古代のアリストテレス主義者であるアフロディシアスのアレクサンドロスを援用して構想された「アリストテレス主義のラジカルな改革」であったと言えます。まだワーク・イン・プログレス的なところもあるものの、ルネサンス期のフェルネルにはじまりカルダーノ、ゲマを経由し、テレジオにいたる筋がきれいに描かれていて、今後の「ルネサンス自然主義」像の刷新につながることが期待されます。