大地によるロゴスのインスパイア 新プラトン主義者の自然発生論

Neoplatonism and the Philosophy of Nature

Neoplatonism and the Philosophy of Nature

  • James Wilberding, "Neoplatonists on 'Spontaneous' Generation," in Neoplatonists and the Philosophy of Nature, ed. Wilbderding and Christoph Horn (Oxford: Oxford University Press, 2012), 197–213.

 古代の新プラトン主義者たちが自然発生をどう説明していたかについての論文を読みました。アリストテレスにとって自然発生とは目的論に沿わない発生のことでした。太陽によって暖められることで腐敗物のような物質中にプネウマが生じて、このプネウマが(完全に非目的的に)運動を引き起こすことでうじ虫のような生物の形相を生じさせるというわけです。しかし新プラトン主義者にとって形相というのは物質のランダムな運動から生じるようなものではないため、親なしでの生成の場合の形相の起源を、アリストテレスのように物質の運動がたまたま特定の形をとるにいたったことに求めるわけにはいきません。

 一つの解決法はアウグスティヌスのように見えない種子が地中に隠れていて、そこから生物が生まれることが自然発生と呼ばれていると考えることでした。しかしそもそも新プラトン主義者にとっては、種子のなかに感覚的霊魂が内在しているということが認めがたいことでした。種子は父親の栄養摂取霊魂によってつくられます。ここで生み出されるものは生み出すものより存在論的に劣位にあるという原則がきいてきます。この原則にしたがうなら、栄養摂取霊魂によって生み出されたもの(ある種のロゴスと呼ばれる)は栄養摂取霊魂の活動を行うことができません。栄養摂取霊魂が種子に宿るのは、子宮のなかで母親の栄養摂取霊魂によって種子中のロゴスが「インスパイア」されてはじめて起こるとされました(ポルフェリオス)。こうして生じた種子中の栄養摂取霊魂が動物の感覚霊魂を受け入れるにふさわしい容器としての身体を形成すると、知性界から感覚霊魂が流出してきて、動物が生まれることになります。

 新プラトン主義者たちの自然発生の説明は、この種子からの発生をモデルに構築されています。ある生物、たとえば牛が死亡します。牛が死ねば牛の感覚霊魂はなくなります。しかし牛の栄養摂取霊魂は少しの間死体に残ります。まるで死んだあともしばらくは髪や爪が伸びたりするように。あるいは二つに切断された生物の諸部分が切断後もしばらく動き続けるように。特定の生物の栄養摂取霊魂は特定の生物の原基となるロゴスを提供します。たとえば牛の栄養摂取霊魂はハチのロゴスを提供します。このハチのロゴスが「大地の霊魂」によってインスパイアされることで、ハチの栄養摂取霊魂となります(テミスティオス)。この栄養摂取霊魂がハチ感覚霊魂にふさわしい容器としての身体を形成すると、知性界から感覚霊魂が流出して、ハチが生まれるというわけです。

メモ

  • 腐敗物がロゴスではなく直接栄養摂取霊魂を与える場合がある。この場合は大地の霊魂は関与しない。逆に腐敗物は何らのロゴスも提供せず、ロゴスがもっぱら大地の霊魂によって提供される場合もあるかもしれない。
  • パスツールが反論した自然発生と、ここでの新プラトン主義者が議論している「自然発生」は少し異なる。なぜなら新プラトン主義者たちは生命原理であるロゴスを物質中に認める限りで、一定の目的性をこの種の発生に持ち込んでおり、その限りでそれはアリストテレスが考えるような「自然発生」ではもはやないから。実際新プラトン主義者たちは「自然発生」という言葉は使わずに、「似ていないものからの似ていないものの生成」とか「腐敗からの生成」という言葉を使う。
  • テミスティオスによれば、大地の霊魂をプラトンは二次的な神々によってつくられたものと考えており、アリストテレスは太陽と黄道によってつくられたものとみなしている(アヴェロエス形而上学大註解』1070a26–28への註釈部)。