パトリッツィによるアリストテレス批判 Deitz, "Francesco Patrizi da Cherso on Privation, Form, and Matter"

  • Luc Deitz, "'Falsissima Est Ergo Haec de Triplici Substantia Aristotelis Doctrina.' A Sixteenth-Century Critic of Aristotle: Francesco Patrizi da Cherso on Privation, Form, and Matter," Early Science and Medicine 2 (1997): 227–50.

 フランチェスコ・パトリッツィ(1529–97)の『逍遥学派的論議』(1571–81年)におけるアリストテレスの原理論批判、および欠除態・形相・質料批判を扱った論文です。アリストテレスが『自然学』のなかで定めている原理の条件は妥当ではない。欠除態と形相は原理ではない。形相とは付帯性にすぎない。アリストテレスが定める第一質料というものはたしかにあるものの、その規定は不十分であり、これは空間と同一視されなくてはならない。このような批判により、パトリッツィは最も重要な反アリストテレス主義哲学の提唱者のひとりとして認知されるにいたりました。しかし(たとえ彼の空間論がのちの絶対空間概念に近しいものがあろうとも)、彼の四元素論(空間、輝き、熱、流体)や、光に満ちた宇宙空間という概念を引き継いだ者はいませんでした。いぜんとしてアリストテレスの原理論、質料形相論は支持され続けます。彼のアリストテレス主義批判ははやすぎたのです。アリストテレスの哲学の根幹が揺るがされ、その質料形相論が組み換えられていくのは17世紀を待たねばなりませんでした。

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パトリッツィの形相概念批判が、192–193ページできれいに解説されている。