科学史のグローバル・ヒストリーに向けて Safier, "Global Knowledge on the Move"

 2010年にIsisで組まれた「科学のグローバル・ヒストリー」特集からの一本です。近年の科学史研究は、欧州からみて周縁とされるような地域で生み出された自然についての知識に大きな関心を払うようになってきました。しかしこの種の知識を再構成するにはいくつかの障壁があります。まず史料が少ない。くわえてその史料の大半がヨーロッパ人の理解カテゴリーに沿って書かれています。しかも欧州からやってきた人々が記録をとるまえから、当然人々は住み歴史を持ってきたわけです。これらの壁をのりこえてグローバルなスケールでの科学史記述を行うためにはどうすればよいか?

 これまでとられてきたアプローチは比較史のものです。しかしこれは中国文化圏、イスラム文化圏といった巨大な文明圏を論述の単位としてとらえたうえで、それを欧州文化圏というスタンダートと比較するということになりがちです。これを避けるためには、より細かく個人や人間集団を見て、それらがどうつながっているかを記述する「接続された歴史」connected historiesが有効になります。もう一つは人類学の手法を援用して、残されたモノに着目することです(たとえばウィリアム・パリーと北カナダのイヌイットたちとの持続的な関係をとりもったくじらの骨)。最後のアプローチは、欧州内で構成されてきた時間的・時代的枠組みをとらずに、現地の地形なり遺跡なり伝統儀式なりの探究から、この地域に特有の歴史的変化や地理的・時間的意識を抽出することです。