ある聖書解釈者の生涯 徳善『マルティン・ルター』

マルティン・ルター――ことばに生きた改革者 (岩波新書)

マルティン・ルター――ことばに生きた改革者 (岩波新書)

 長年ルター研究と、その著作の翻訳に従事してきた著者によるルター概説書です。副題からもわかるとおり、一聖書解釈者としてのルターが記述の中心にすえられます。この点では本書のクライマックスははやくも第1章で訪れます。ルターが旧約聖書詩篇の「あなたの義によって私を解放してください」という文言にある「義」をキリストと解釈して、以後生涯にわたって保持される神学の解釈原理を手にする箇所です。しかし本書はそれだけでなくルターがおこなった論争、説教、翻訳活動、作詞・作曲活動、結婚、政治問題への応答、ユダヤ人批判といった多様な側面をバランスよくとりあげ、それらを当時のキリスト教世界やドイツの政治状況と適切につきあわせながら論じてくれています。幅広い読者にすすめられる一冊です。

メモ

制度としての贖宥の成立には、ゲルマン世界に広く見られた損害と賠償、代理という考え方が強く影響している。彼らの世界では、他者に損害を与えた場合、その損害に対する等価の賠償を必要とし、その賠償には代理をもって当てられるという慣行があった。この慣行を民衆の宗教体験の中に具体化したものが贖宥である。(63ページ)