小さなことから中くらいのことを考える Kohler and Olesko, "Introduction: Clio Meets Science"

Clio Meets Science (Osiris, Second Series)

Clio Meets Science (Osiris, Second Series)

 科学史研究は扱う領域にしても方法論にしても拡大の一途をたどってきました。その結果として科学史研究は一体性を失いました。今や科学史はマイクロヒストリーであふれかえり、他分野にたいしてみずからを定位することができる共通の目標を喪失しています。マイクロヒストリーの増加は、厳しさを増す教員市場のなかで高い確率で成果につながる研究を行わねばならないという圧力が増大したことの結果でもあります。また科学の社会構成主義の隆盛は、個別の事例の経験的研究からいかに科学という営みが社会的要因によって規定されているかを明らかにするというトレンドを生みだし、これもまたマイクロ・ヒストリーの増加に寄与しています。

 科学史研究の断片化を前にして90年代の前半から、科学史の「ビッグ・ピクチャ」を再興しようというかけ声があらわれています。それにたいして本Osirisの特集が目指すのは、歴史家が日々扱っている小さな事例研究から大きく考えることのすすめです。個別研究を素材に、大きな、いやむしろ中くらいのレベルの問題を考えようというのです。このことはすでに近年の科学史研究のトレンドとなっています。Isis誌のFocusにしても近年のOsirisの特集にしても、科学史のビッグ・ピクチャの提示というよりも、科学とコミュニケーション、科学と場所・時間、科学と印刷文化、科学と大衆というような中間レベルの大きさの主題を選定して、その理解の深化に個別研究から寄与することが目指されています。

 本特集はこのような研究動向にさおさすものとして、いくつかの一般的なヒストリオグラフィについての考察と、まさに小さな主題から大きく考えることを実践した9本の経験的研究から構成されています。