- 作者: Manfred Horstmanshoff,Helen King,Claus Zittel
- 出版社/メーカー: Brill Academic Pub
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- Valeria Gavrylenko, "The 'Body without Skin' in the Homeric Poems," in Blood, Sweat and Tears: The Changing Concepts of Physiology from Antiquity into Early Modern Europe, ed. Manfred Horstmanshoff, Helen King and Claus Zittel (Leiden: Brill, 2012), 481–502.
ホメロスの叙事詩にみられる身体観を扱う論文です。この問題の研究としてブルーノ・スネルの古典『精神の発見』があります。そこでスネルはホメロスでは身体がしばしば複数形をもって指し示されることから、『イリアス』と『オデュッセイア』では身体は統一体としてではなく、四肢の集合として理解されていたと論じました。それにたいしてこの論考ではクロースという言葉に着目して、スネルの理解とは異なる身体観がホメロスにあることを論じています。クロースというのは一般的には身体の表面とか皮膚とか理解されています。しかしホメロスのテキストを検証するなら、皮膚を意味する単語は基本的には動物の皮に使われていることがわかります。クロースは、むしろこのような外界から自らを遮断するような堅固な皮膚に覆われていない身体を指し示しています。人間の体は外界からの物理的な攻撃によっても、また精神的な衝撃によっても容易に影響され変容するもろいものです。このような常に何かにさらされ傷つけられる可能性に満ちたものとして身体が理解され、それがクロースという言葉で表現されているのです。ちなみにこのような外界からの浸潤から身を守るための手段として、『イリアス』と『オデュッセイア』では身体を洗って油を塗り込むということがしばしば行われています。
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