汗をめぐるあれこれ Stolberg, "Sweat"

Blood, Sweat and Tears -: The Changing Concepts of Physiology from Antiquity into Early Modern Europe (Intersections Interdisciplinary Studies in Early Modern Culture)

Blood, Sweat and Tears -: The Changing Concepts of Physiology from Antiquity into Early Modern Europe (Intersections Interdisciplinary Studies in Early Modern Culture)

  • Michael Stolberg, "Sweat: Learned Concepts and Popular Perceptions, 1500–1800," in Blood, Sweat and Tears: The Changing Concepts of Physiology from Antiquity into Early Modern Europe, ed. Manfred Horstmanshoff, Helen King and Claus Zittel (Leiden: Brill, 2012), 481–502.

 汗の観念を追跡した論文です。汗というのは身近な現象で、しかもそれにはさまざまなイメージが付与されています。それにもかかわらず医学史家は汗にこれまで大きな注意を払ってきませんでした。汗というのは伝統的に尿や目には見えないが身体からでている蒸発物とおなじように、排泄物の一種であると考えられていました。それはSerumと呼ばれた特に微細な体液が、小さな孔を通って出てくるものと考えられました。排泄物の一種である以上汗にはしばしば否定的なイメージが投げかけられました。しかし同時に発汗は排泄物の除去という肯定的な意味を持っていました。特に汗をかくと熱が引くという考えは人々に強く根付いていました。そのため病気を治すためオーブンの上にいって汗を書こうという人物などが出現します。さすがに18世紀あたりになると医師たちはああいう行為はむしろ生命を危機にさらしていると言い始めるものの、それでも汗と健康とのつながりは信じられ続けました。発汗の仕組みが顕微鏡や解剖によって明らかとなり、汗の成分が化学的な分析によって明らかにされるようになって以後も、汗の観念はほとんど変化していませんでした。汗の観念はあまりに人々の日常生活に深く浸透しており、この浸透した意味のネットワークに組み込まれなければ、たとえ経験的に確かめられた科学理論といえども受け入れられる余地がなかったのです。