- 作者: Manfred Horstmanshoff,Helen King,Claus Zittel
- 出版社/メーカー: Brill Academic Pub
- 発売日: 2012/06/01
- メディア: ハードカバー
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- Barbara Orland, "White Blood and Red Milk. Analogical Reasoning in Medical Practice and Experimental Physiology (1560–1730)," in Blood, Sweat and Tears: The Changing Concepts of Physiology from Antiquity into Early Modern Europe, ed. Manfred Horstmanshoff, Helen King and Claus Zittel (Leiden: Brill, 2012), 443–478.
人間の体から出るミルクというのは、基本的には女性の乳房から出ます。なんでこんなものが出てくるのか?医学者たちの一致するところは、それは血液からつくられるというものでした。だからミルクは白い血液なのであり、逆に血液は赤いミルクとなります。ミルクは血液から派生するものなので、血液とともに人間の体を構成する体液とみなされます。病気は体液バランスの欠如から生じるので、人はミルクについてもそれが適切な状態にあるかどうか注意していないといけません。たとえば妊娠中の女性の乳首が赤ではなく、黄色や淡い色になって言える場合は、血液が乳首を圧迫している証拠で、これはひいては子宮の中の胎児の状態がよくないことを示します。だから乳母は注意深く妊婦の乳首を見ていないといけない。
ミルクの起源が血液とされるとき、その血液というのは月経血のことだとアリストテレスは考えました。こう考えるならば、妊娠して月経血がとまるときと、母乳が出はじめるじきが(おおむね)重なっていることをよく理解できます。しかしそうすると妊娠していない女性や、果ては男性まで時としてミルクを身体から出すという事実を説明できなくなります。この難点を説明するさいにはしばしばヒポクラテスが引かれました。ヒポクラテスに基づいて、二種類のミルクの存在を身体に想定し、母乳以外にもあらゆる人間に備わるミルクがあるとしたのです。
17世紀の前半から乳縻やその運搬のための管が体内で発見されるようになり、体液モデルに基づいたミルク理解は姿を消し始めます。ハーヴィの血液循環論やデカルトの哲学は、体液モデルではなく、機械的な水力学的な機械のモデルで人体を理解することを促進しました。こうして実験に基づく生理学が生まれてくるのです。