16世紀の血液観 Santing, "Blood as the Source of Life"

Blood, Sweat and Tears -: The Changing Concepts of Physiology from Antiquity into Early Modern Europe (Intersections Interdisciplinary Studies in Early Modern Culture)

Blood, Sweat and Tears -: The Changing Concepts of Physiology from Antiquity into Early Modern Europe (Intersections Interdisciplinary Studies in Early Modern Culture)

  • Cartrien Santing, "‘For the Life of a Creature is in the Blood’ (Leviticus 17:11). Some Considerations on Blood as the Source of Life in Sixteenth-Century Religion and Medicine and their Interconnections," in Blood, Sweat and Tears: The Changing Concepts of Physiology from Antiquity into Early Modern Europe, ed. Manfred Horstmanshoff, Helen King and Claus Zittel (Leiden: Brill, 2012), 415–441.

 16世紀の2人の医学者にみられる血液観を検証する論考です。オランダのレミニウス(Levius Lemminius)はその著作の中で四体液のうちで血液をもっとも重要視しました。血液は命の象徴であり、血液が失われれば命も失われます。体液のうち血液が純粋な状態に保たれているのが理想的な人間であり、その代表例はダヴィデやフィリップ二世となります。中世では血液が強壮な人間はむしろ荒々しい人物となると考えられていたのにたいして、ここでは血液がよりスピリチュアルな領域に近づけて理解されています。イタリアのアンドレア・チェザルピーノ(Andrea Cesalpino)は教皇に仕えた医師でした。彼は対抗宗教改革のなかカトリックアリストテレスの絆を再強化しようという教皇庁の思惑に忠実にしたがい、ガレノスを攻撃しアリストテレスを擁護します。人体の主要機関を脳とみなしたガレノスにたいしてチェザルピーノはあくまでアリストテレスにならって心臓こそ主要機関とみなしました。心臓から血液と精気の混合体がながれていくことが生命維持の要だというのです。心臓から流れる血液は、神から発する息吹(聖霊)と類比的に理解されています。ここでも血液はスピリチュアルに理解されているのです。血液が持っていた非物質的で、宗教的な正確を指摘したキャロリン・バイナムのただしさがこうして裏付けられます。