アニマは魂霊か霊魂か 柴田「「亜尼瑪」と「霊魂」」

  • 柴田篤「「亜尼瑪」と「霊魂」 イエズス会士の漢訳語について」『イエズス会士関係著訳書の基礎的研究』昭和62年度科学研究費補助金(総合研究A)研究成果報告書、研究代表者 吉田忠、1988年、7–14ページ。

 霊魂という言葉は『楚辞』9章で2箇所使用されているものの、その後広く用いられた痕跡はありません。むしろ魂霊ということばが使用されていました。中国を訪れたイエズス会士によって最初に著された本格的な漢文教理問答集である『新編天主実録』(1584年)では人間のアニマが多くの箇所で魂霊と訳されています。しかし改訂版である『天主聖教実録』(1640年前後)では、魂霊の語が削られて、全体として霊魂に置きかえられています。この置きかえの理由としては、1584年から1640年のあいだにマテオ・リッチによって人間のアニマを霊魂と訳すことが行われ、それが定着したからではないかと考えられます。マテオ・リッチは中国に元来存在する思想と、キリスト教の人間アニマを区別するために、あえてほとんど使用されていない霊魂という訳語を使ったと推測されます(なお栄養摂取霊魂は生魂、感覚霊魂は覚魂とされた)。ただしその後すぐに霊魂という訳語が即座に統一的に用いられたというわけではなく、当初は魂霊という言葉を残しながら、しばしば亜尼瑪という音訳も使用されている状態でした。しかし最終的には霊魂が中国キリスト教のうちに定着していくことになります。