働け ヘシオドス『仕事と日』

ヘシオドス 全作品 (西洋古典叢書)

ヘシオドス 全作品 (西洋古典叢書)

  • ヘシオドス『仕事と日』中務哲郎訳『ヘシオドス 全作品』京都大学学術出版会、2013年、157–208ページ。

 ヘシオドスのもうひとつの残存作品です。ヘシオドスはこの詩を弟ペルセスにあててつくりました。ペルセスはまじめに働いていません。それだけでなくアゴラで裁判官をつとめている王様たちに賄賂をわたすことで、父の遺産を不当におおく獲得していました。この弟に勤勉に働け、まっすぐに生きろと説くのが『仕事と日』ということになります。

 なぜ働かないといけないのか。それはプロメテウスに騙されたゼウスが怒って「命の糧」を人間からかくしてしまったからだといいます。それだけでなく、ゼウスは禍の源である女性をも人間にあたえ労苦を増しました。この女性パンドラはなにをしたのか。

それはこういうことだ。以前には、この地上の人間は、
禍いも過酷な労働もなく、人間に死をもたらす
難儀な病気も知らずに暮らしていた。

ところがこの女が、甕の大きな蓋を手で開けて、
中身を撒き散らした。人類に忌まわしい苦労を招いたものだ。
ひとり希望のみが、その場に、不壊の館の中に、
甕の縁の下に残って、外へは飛び出さなかった。(163–164ページ)

最後の希望をどう解釈するにせよ、女性により世界中に災厄がまきちらされ、これにより人間は労働せねばならなくなりました。『神統記』にあった女性嫌悪がより詳細な神話形式で語られているのをみてとることができます。

 ゼウスのはからいにより労働をせざるをえない人間がいかに勤勉に、正義にかなったしかたで生きるべきかがこのあとさまざまな教訓を与えるかたちで語られます。とにかく働け。「怠けて生きる奴には、神も人も憤りを覚える。働きもせず、蜜蜂の苦労の結晶を食いつぶすばかりの、針を持たぬ雄蜂のような性根をしておるからな」(176ページ)。女を信用するな。「女を信用する男は、泥棒でも信用する」(181ページ)。できることを後回しにするな。「精勤こそ仕事を捗らせ、後回し男はいつも破滅と格闘することになる」(183ページ)。鶴の声を聞くときにはもうすぐ冬だ、気をつけろ。航海するときには命の糧を船に積みすぎてはならない。妻は30歳前後でとれ。「まめまめしい作法を教えこめるよう、生娘を娶れ」(200ページ)。舌には気をつけろ。「慎み深い舌はこの世の最高の宝、舌が節度をもって動く時、その魅力は最大となる。悪口をきけば、たちまち自分がもっと悪く言われよう」(201ページ)。噂話に加担するな。「噂は、多くの人が口の端に上せたら、一向に消え去らぬ。これもまた、神のようなものなのだ」(204ページ)。ところで「太陽に向かって、立って尿(しと)してはならぬ」(202ページ;ただしヴィラモーヴィッツが後代の挿入としている箇所)。

これらをことごとく弁えて、神々に対して落ち度なく、
鳥の前兆を判断し、人の道を踏み越えることなく
仕事に励む者は、神と共にある幸せ者だ。(208ページ)