現代における問題意識の変化が、歴史をみる視座をも変化させた事例を論じた論考である。明治期の製糸工場で使われていたボイラーは、洋式のものを参考にしながらも、各地の事情に合わせてそれぞれの地域で独自に開発されたものであった。このような地方機械工業の存在は歴史記述において長らく注目されてこなかった。しかし1970年代以降状況が変化する。先進国の技術を途上国にそのまま移植しても期待したほどの成果はあがらず、むしろ移植先の現地の水準にみあった適正技術を開発することが、途上国の工業化に寄与すると論じられはじめた。ここで明治期の地方機械工業は適正技術開発の典型例であるため、それを検討することの意義が高まることになった。現代における問題意識の変化が、歴史学のほうに問題のありかを指ししめしたというわけだ。これを著者は「歴史が学ぶ」事態であったと表現している。
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