化学革命の諸前提 ブロック『化学の歴史 I』第3章

化学の歴史〈1〉 (科学史ライブラリー)

化学の歴史〈1〉 (科学史ライブラリー)

−W・H・ブロック「科学の歴史I」大野誠梅田淳、菊池義之訳、朝倉書店、2003年、71-103ページ。

 第3章の主題はラヴォアジエによる化学革命である。酸素が酸化の原因であると突きとめたことと、水が酸素と水素の化合物であることの発見はよく知られている。さらにここから元素の操作的な定義と、それにもとづく化学物質の体系的命名法を考案した。だがここで目を向けておきたいのは、この革命を可能とした諸条件である。まず化学反応に空気が参与しているという認識がなければならなかった。これはヘイルズが1727年に明確にした。さらに空気がなにか単一の元素であるという考えが廃棄されている必要があった。ブラックは炭酸マグネシウム(炭酸塩と呼ばれた)に含まれている空気が、大気とは異なる性質をもつことをあきらかにしていた(この空気とは二酸化炭素のことである)。この後イギリスを中心に数多くの「人工空気」の研究が進む(ラザフォード、キャヴェンディッシュ、プリーストリ)。この研究の前提には、気体を取りだし検証できる気体桶をヘイルズが考案していたことがあった。ヘイルズはまた、1720年に空気は熱を奪われると、気体ではなくなり、固体なり液体なりに固定化されるということをあきらかにしていた。物体の気体状態の理論である。
 これらの前提のうえで、空気中でカ燃された金属の質量が増加しているのが確かめられたとき、ラヴォアジエの革命は可能となったのであった。