12世紀の改革 Constable, The Reformation of the Twelfth Century, ch. 1

Reformation Twelfth Century

Reformation Twelfth Century

  • Giles Constable, The Reformation of the Twelfth Century (Cambridge: Cambridge University Press, 1996), ch. 1.

 現代を代表する中世史家の一人であるコンスタブルによる12世紀論である。より正確には、1040年から1160年を主題として、その期間に西洋社会で起きていた巨大な変化の様を描きだそうとする書物である。序章では全体的な見通しが示されるとともに、用語の整理(これがきわめて執拗に行われていてすばらしい)が行われている。著者によれば、西洋の11世紀から12世紀というのは、社会の全体におよぶ巨大な変化が生じていた。この変化は当の時代を生きていた人々にも強く自覚されており、彼らはしばしばそれを改革(reformatio)と呼んでいた。著者の見立てによれば、11世紀から12世紀にかけて変化をもとめ実験的な試みが多く行われた一方で、それ以後には反動が起き、硬直化と社会の様々な局面での閉鎖化が進行するという。

 社会全体が変化したといっても、著者が主にとりあげるのは(書名にReformationという言葉が選択されていることからうかがえるように)広い意味での宗教活動にかかわる主題である。とりわけ修道制が中心的な話題となる。著者によれば11世紀から12世紀を特徴付けるのは、修道制の理念の浸透であった。現世全体を修道制化する努力がはらわれたとすら著者は述べる。序章ではまだ本格的に展開されはしないが、修道制の理念の拡散とその変化が続く各章の主題となるだろう。大筋としては本書が扱う初期の段階(11世紀)においては、修道制度は多くの人びとから賞賛されていた。それは社会からの逃走として非難されるどころか、より優れた生き方として賞賛されていた。しかも実際問題としても修道制にかかわっていた人々は、とある経済史家の言葉を借りれば、経済的にアクティブな人々であった。彼らは人々が求めるサービスを提供し、それにたいして人々は喜んで対価を払ったからである。しかし修道制の理想と現実とのあいだに必然的に生じるギャップはまもなく認識され、鋭い批判が修道制の外部からも、あるいは林立する修道会相互のあいだでも向けられることになる。たとえばシトー派修道会には独善で傲慢であるという批判が頻繁になされた。これらの批判を額面通り受け取ることは避けねばならないものの、次第に修道制が社会のうちでしめる地位が変化していたのは間違いない。

 最後に著者はこの時代の改革運動をあとづけることを困難にしている史料の性格について論じている。まず残された史料はほとんど男性がラテン語で執筆したものである。これが改革運動に参与した人々の一部しか代表していないのはあきらかである。第二に宗教的霊性に関する話題は、過去の語り方を反復して構成されることが多く、そこから特定の歴史的背景を読みとるのがむつかしい。歴史家は書かれているトピックのバランスや、力点の置かれ方に着目せねばならない。第三に残された史料は、改革期よりあとに、その時代を振り返って書かれていたり、広大に加筆改変がなされている事が多い。そのため同時代の史料として、非言語史料(美術、建築、音楽)を積極的に活用することが求められる。

 このような困難をかいくぐって、11世紀から12世紀の宗教を中心とする改革運動を論じていくのが本書の課題となる。著述の特徴として、論を裏づけるための事例の紹介がきわめておおく、しかもそれぞれの紹介の大半に印象的な引用がふされている。あまりの引証の量にときに議論の筋を追うのが難しくなるものの、読者は11世紀から12世紀にかけて改革運動にかかわった人々の高揚と葛藤を感じとることができるだろう。単に中世史家にとどまらず、社会や生活のうちで信仰がしめる位置づけに関心をもつ人に広く進められる一冊となっている。

 でも英語で読むのはむつかしい?なんと日本語訳がまもなく刊行される予定だという。楽しみに待とう。

図像出典

著者が専門とする尊者ペトルス。ウィキペディアより。