桐野夏生、『メタボラ』

メタボラ

メタボラ

 桐野夏生氏の新刊。朝日新聞で2005年11月28日から2006年12月21日まで連載されたものの単行本化です。

 とりあえず、

  • 桐野夏生氏の作品はとりあえず買う(←私がこれです)
  • 派遣業の実態について知りたい

 という人は買う価値があると思います。
 しかし小説自体を楽しみたい人には、この作品はすすめられません。というのも、作品全体として見た場合、『メタボラ』の完成度は低いと思うからです。正直、これが桐野氏の作品だとは思えないほどです。

 もちろん、個々のシーンの描写力などはさすがに優れていると思います。

 しかし、小説全体としてみた場合、構成は破綻しています。

 主人公の過去の話、準主人公の位置づけを与えられる男性をめぐる話、沖縄での選挙の話など、『メタボラ』ではいくつもの話が平行して進みます。それなのに、それぞれの話が小説内で結びつきません。

 作者も最後は疲れてしまったのか、それらを結びつけることもせず、適当に話を終わらせてしまっています。結果として、作品を通して作者が何を描きたかったのかが見えてきません。この記事を書くために、私も内容の要約をしようと試みたものの、作品の構成が散漫なためにまとめることができませんでした。

 新聞連載ということで、構成がある程度破綻してしてしまうのは仕方ないにしても、単行本化に際して、もう少し手を入れることはできなかったのでしょうか。残念です。

 『柔らかい頬』や『グロテスク』のような作品を、また桐野氏が書いてくれることを期待したいです。