スカリゲル、『ヘルメス文書』、『カルデア人の神託』

 実に、事物のすべてはかの古代の哲学者たちによって覆いのもとに隠されているのだ。ピュタゴラスはすべてを記号のあいまいさを用いて覆ったのみならず,長い沈黙[を弟子たちに課すこと]によってそれらが秘められたままであるようにした。それらが世俗的な無思慮によって汚染されてしまうことがないためである。
 したがって、トリメギストスはカルデア人たちの書物から,火もまた神であるとほのめかした。というのも,彼は他の元素の創造を火に帰したからである。彼は次のように書いている。「空気は浄化によって水から作られる。この浄化を生みだすのは火である」。彼がこのように言うのは,元素の形成者を元素にするほど自然に関する事柄について無知であったからではない。したがって知恵ある者たちはここでは火は神の代わりに用いられていると解釈した。

 Et sane rerum involucris omnia operta sunt a priscis illis. Quae non solum obduxit notarum obscuritate, sed etiam diuturno silentio curavit involuenda: ne prophanis temeritatibus contaminarentur.
 Ergo Trimegistus e Chaldaeorum libris ignem quoque deum innuit. Quando igni attribuit aliorum elementorum creationem. Scribit ille sic: aerem ex aqua factum per defaecationem, cuius autor ignis sit. Non enim tam nescius rerum naturae fuit: ut elementi elementum faceret opificem. Quare ignem ibi pro deo sapientes sunt interpretati (Scaliger, Exotericae exercitationes, ex. 365, sec. 4, 474r.).

 『演習』の最終章に現れる文章です。直前にはアリストテレスの神は万物の製作者(effector)であるということが、『生成消滅論』の記述を根拠に主張されています。

 なかなか興味深い箇所でお気に入りなのですけど、困ったことに第2段落に現れるヘルメス・トリ(ス)メギストスへの言及が『ヘルメス文書』のどこを指したものなのかが分かりません。

 18個の文書と『アスクレピウス』の中で、「火」という単語が現れる箇所はすべて調べましたが、スカリゲルが引いているような内容が述べられた箇所は見つかりませんでした。うーん、どこなんだろう。

 あと「カルデアたちの書物から」という表現は『カルデア人の神託』なのでしょうか。この人の頭の中ではヘルメス・トリスメギストスが『カルデア人の神託』を読んだことになっているのでしょうか。

id:Freitagさんからアドバイスを受けて、『24人の哲学者』を見てみました。これには該当する記述はなさそうです。次はフィチーノを見てみましょう。