ルドゥーの都市構想

思想 2009年 10月号 [雑誌]

思想 2009年 10月号 [雑誌]

  • 小澤京子「建築のヒエログリフ:クロード・ニコラ・ルドゥーによる都市構想」『思想』No. 1026、2009年10月、50-80頁.

 著者の小澤さんが出した『都市の解剖学』を書店で見かけたので、手元にあった『思想』誌に収録された論考を読んでみました。

都市の解剖学―建築/身体の剥離・斬首・腐爛

都市の解剖学―建築/身体の剥離・斬首・腐爛

 建築史の主題として真っ先に挙げられるのはもちろん実際の建築物です。しかしこの分野にはもう一つ重要な資料があります。それは建築家が書き残した建築計画です。この建築計画には実現を目指して構想されたが果たされなかったものがある一方で、実現可能性をとりあえず度外視してあるべき建築の在り方や自らの構想力を示すために建築家が練り上げたものもあります。この論文で分析されているルドゥーの『芸術、習俗、法制との関係の下に考察された建築』(1804年)という著作は、後者の種類の建築計画(というか都市計画)を収めています。

 一人の旅行者による見聞録として語られる都市構想は、書物に書かれた本文とそこに付された図版をたくみに利用しながら、建築のアルファベットとしての円や球形のモチーフ、建物の本質を体現する外観といったルドゥーの建築構想を雄弁に物語るものとして読み解かれていきます。

 私が学んだのは主に2点。一つは西洋のユートピア思想というものの一大特徴をその自足的閉鎖性に求めるという視点です。なるほど。確かにベイコンの『ニュー・アトランティス』の舞台もペルーからアジアに向かう途中の太平洋上にある孤島でした。もう一つは18世紀において事物の外観が本質を表すという考え方が建築構想にまで波及していたという点です。これは近年ダストン、ギャリソンの『客観性』で分類学、解剖学を主題に検証されていた主題であり、科学史分野ではなじみ深い思考形式です。まさに「18世紀の知的システムの根幹を為すもの」ですね。

 気になったのはヘルメス主義という言葉の使い方です。どうやら幾何学的モデルに基づく宇宙創成論や、世界と人間との関係を円、中心、放射線という観念を用いて解説することを「ヘルメス主義的ないし宇宙開闢論的な世界観」と呼んでいるようです。また「ヘルメス主義の四物質(水、火、風、土)」という文言も見られます。前半部はヘルメス文書に特有というよりもむしろプラトン主義の伝統に帰されるべき思考形式ですし、後者にいたっては単なる四元素にしか見えません。これらを指すためにヘルメス主義的という言葉を用いるのは適切ではないと思います。

Objectivity (Zone Books)

Objectivity (Zone Books)