混交研究その3

  • Daniel Sennert, De chymicorum cum Aristotelicis et Galenicis consensu ac dissensu, in Opera (Lyon, 1656), 230a-b.

 混交に関するゼンネルトの見解を調べたところ,彼はスカリゲルの混交理論に依拠して,混交物の中で元の構成要素の形相が存続すると主張していることが分かりました.

 混交の定義について,ゼンネルトは次のようなスカリゲルの意見を採用しています.すなわち,「結合を生じさせるための,最小の諸物体の相互に接触するための運動」.ゼンネルトによれば混交物が生じる際には,混交される物体(miscibilia)が最小の諸部分に至るまで分解され,さらにこの諸部分がそれぞれがもつ質の相互作用によって,一体のものとして結合します.

 この時,混交される物体が持つ形相は完全に失われるわけではありません.というのも,形相を完全に失えば,元の構成要素が復元されるという現象が説明できなくなるからです.むしろ混交の結果生じることになるより上位にある形相の下で,混交された形相のすべてが一つに結合された状態で残ると考えるべきであるとゼンネルトは主張します.この結果,混交物は一つの形相によって一つの物体となると言えることになります.

 ただしその際混交される物体の形相がそのままの状態で保存されているのか,それとも何らかの形で弱められているのか(これはアヴェロエスとザバレラの意見)については,ゼンネルトは意見を留保します.

 ここまでの検討から分かることは以下のことです.バッソ,シュペリング,ゼンネルトの三人の原子論者は,スカリゲルの混交理論を混交物中での元の構成要素の形相の残存を認めるものとして解釈し,それを自らの原子論的物質理論に合致するものとして引用しています.これが本当にスカリゲルの意見であったのかを確かめなければなりません.

 [実はバッソ,シュペリング,ゼンネルトのスカリゲル解釈はそれぞれ微妙に異なっているため,実際に論文を書くときにはこと違う点を強調した書き方をするかもしれません.]