保存される粒子と機械論 Newman, Atoms and Alchemy. ch. 7

Atoms And Alchemy: Chymistry And the Experimental Origins of the Scientific Revolution

Atoms And Alchemy: Chymistry And the Experimental Origins of the Scientific Revolution

  • William R. Newman, Atoms and Alchemy: Chymistry and the Experimental Origins of the Scientific Revolution (Chicago: Chicago University Press, 2006), 190–215 (ch. 7).

 『原子と錬金術』の第7章(最終章)では、ゼンネルトから引き継いだ実験の成果のうえにたって、ボイルがいかにその成熟期の化学理論を構築していたかが論じられています。金属を用いたゼンネルトの実験から、ボイルは最も基本的な粒子が様々に結合することによりより複雑な粒子(あるいは粒子の集合)をつくり、現象はこれらの一段複雑な粒子の相互作用によって起こると考えていました。またゼンネルトの実験は、このような粒子の集合が化学反応の過程でもそれ以上分解されずに保存されるということも教えていました。さらにボイルは火などの手段を使って、物質が持つ様々な性質を変化させる実験を行いました(これはベイコン的プログラムです)。この際にはしばしばその物質、例えば銅が銅であるまま、その耐久性や温度や色を変えるということが行われました。

 ここからボイルは考えました。物体に働きかけることで、その性質を変化させるながら、かつその本性を失わせないでいさせることが可能だ。これはつまり、その物体を構成している粒子(あるいは粒子の集合)のところは変わることなく、ただその粒子の配置や組成が変化しているということだろう。ここで起きているのは物体の「本質的構造 essential structure」は変化せずに、「本質外の性質 extraessential attributes」だけが変わっているということだ。この本質の構造から生み出される諸(本質的)性質の集合を形相と呼ぶならば、それも構わないだろう。さらに火は機械的な作用の仕方をするので、それによって性質の変化が引き起こされる以上は、性質というものが非物質的な形相のようなものではなく、物質的粒子に依存しているものであることも間違いないだろう。また本質的構造が粒子の構造からなるということも、例えばAという物質をBとCに分離させ、その後BとCと合成するとまたAが復元するという化学反応の存在から裏づけられるのではないだろうか。つまりAの本質というのはBとCという部分の組み合わせとして考えられるのだから、いわば時計の部品のように本質というものが組み合わせられて別の本質を産み出すと考えるのが適当である。

 ニューマンが強調するのは、これらの推論のなかで常に、「究極的な粒子の集合が反応の基礎に有り、しかもそれは反応の過程で保存される」という命題が前提とされているということです。これがあるからこそ、本質と本質外を区別することができる。これがあるから本質外のところで起こる変化を粒子(の集合)の配置の変化として説明できる。これがあるから物質の合成による復元を、粒子(の集合)の結合として説明できる。この意味でゼンネルトからボイルが引き継いだ実験成果は、ボイルの化学と機械論の中核をなすものであったとニューマンは主張しています。