ロジャー・ベーコン,寿命の延長

  • 藤崎衛「ラテン中世の『寿命の延長』(prolongatio vitae)について―ロジャー・ベイコン,錬金術教皇宮廷―」『死生学研究』9(2008年),224-246頁.

 13世紀後半から14世紀初頭の教皇宮廷で,寿命の延長がどのような方法で目指されていたかを,『老化の症状の遅延について』,ロジャー・ベイコン『大著作』,同『六科学の書』を題材に探る論文です.ここからダウンロードすることができます.

 印象的だったのは『大著作』にあるという次のような文言でした.

 堕落は,形相が質料の欲求全体を満たすことができないということゆえに事物の中に生じるのであり,それゆえつねに別の形相を欲する.

 そして天体の作因は,自然の究極的善である均等な混合の形相が生じるまで,その欲求を新しい形相へと押し向ける.そしてこのことは,堕落する事物の中にある質料の欲求を完全なものとし,堕落を取り除いてそれを永遠に排除するのに十分である.

 ここで言われていることはかなり面白い記述ではないでしょうか.

 前半部分はおそらく質料に何らかの能動性を認めるというロジャーの考え方に沿った堕落論であると思われます.後半部分はそこからさらに進んで,天体による月下界の事物への作用の仕方が論じられています.

 ちなみに執筆者の藤崎氏のサイトがあります.