今売り出し中の研究者によるケプラー論を読み返しました。
- 「ケプラーの生きている宇宙」 Patrick J. Boner, "Kepler's Living Cosmology: Bridging the Celestial and Terrestrial Realms," Centaurus 48 (2006): 32-39.
ケプラーといえば、世界は幾何学的原理に基づいてつくられていると考え、その構造は究極的には幾何学を行う創造神に由来すると考えいたことが知られています。しかし彼によれば、幾何学的原理、あるいは原型(アーキタイプ)があるだけでは、今私達が目にしているような秩序だった宇宙は生まれません。そのような原理を認識し、それを実現するような作用因が必要になります。それはいうなれば、美しい音楽のしらべだけでは何も生まれず、それを聴く者がいてはじめてダンスが生まれるようなものです。この作用因として機能して、地球での様々な現象の説明に用いられるのが、地球の霊魂という考え方です。人間の体が生きて魂を持つように、地球も生きて魂を持っている。人間が発汗するように、地球が発汗する。もちろん地球の発汗は地球的規模のものになって、雨やらなんやらの気象現象を生み出すことになります。こうして神が措定した幾何学的原理とこの世の現象をつなぐものとして、作用因たる霊魂をケプラーは導入したとされます。