ケプラーの想像力

 家に届いたEarly Science and Medicine誌の最新号から、ケプラーの想像力理論を扱った論文を読みました。

  • Imagination as Self-knowledge: Kepler on Proclus’ Commentary on the First Book of Euclid’s Elements,” Early Science and Medicine 16 (2001): 179-99.

 西洋哲学の標準的な理解では、幾何学的対象というのは感覚される事物から抽象されたものです。ところがケプラーにとってはそうではない。なぜなら彼にとっては私たちの霊魂自体が円だから。いや、何を言っているのか分からないと思いますけど、とにかく少なくともプトレマイオス以来霊魂を円とか調和と関連付ける思考方法が一部の人々によって受け継がれていたのです。

 この霊魂観によれば、円という幾何学的対象は外的世界から抽象されるものではなく、むしろ霊魂が自分自身を反省的に捕らえることにより発見するものであると考えられます。このいわば自己認識のきっかけとなるのが、外部世界です。どうやらケプラーによれば霊魂というのは外部世界を感覚すると、そこからそれが中心、直線、円という三つの要素からどのように構成されうるかを本能的に悟るようです。このプロセスにより自分の中の保湿としての幾何学的性質(つまり円であること)を認識すると。

 この論文ではまさに外的世界を三つの要素から構成するという営みが想像力の領域でなされているという点に着目しています。この点においてケプラーは伝統的なアリストテレス主義の想像力理論から離れて、想像力のconstructiveな役割を見出したといわれています。本質的に数学的である人間の霊魂に基づいて、外部世界に調和を見出していくという過程において想像力が必須のものとされるということです。

 ただ論文の肝であるはずの194ページから196ページにかけての部分が大変分かりにくい点と、論文の主題であるプロクロスとの想像理論との関係がテキストレベルで示されていない点で不満が残りました。