Epicurus and the Epicurean Tradition
- 作者: Professor Jeffrey Fish,Kirk R. Sanders
- 出版社/メーカー: Cambridge University Press
- 発売日: 2011/05/26
- メディア: ハードカバー
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19世紀の哲学史家ツェラーはエピクロス以後のエピクロス派について否定的な評価を下しました。彼が言うには、同派の人々は創始者の学説を絶対的に正しいものとしてみなしたため特筆に値するような学説上の発展を生み出せなかった。このような否定的評価は実際古代から存在していました。この創造性の欠如という根深い先入観のために、哲学史のなかでエピクロス派研究という領域は、エピクロス本人の思想を研究するということに等しいという状況が続いていました。
この論文集はそのようなエピクロス派観を離れて、同派の歴史のなかでの伝統と発展がいかに交錯してきたを探求するものです。考えてみればある集団内で共通の正典のようなものが定められるということは、そこに属する人々のあいだでの意見の一致を保証しません(キリスト教の歴史を見よ)。エピクロス派の場合、たとえば創始者が神についてどのように考えていたかは解釈上の問題となりました。彼の考える神というのは現実世界に存在し感覚を通じて私たちに知覚されるものなのか。それとも神というのは私たちがそうなりたいと願う理想像が心的に具現化されたものなのか。
あるいはエピクロス派の学説の主要な情報源となってきたキケロの著作は、実際の同派の主張をどの程度正確に反映しているのか。またそもそもキケロはいかなる情報源によりながらエピクロス派の学説紹介を構成し、さらにはそれに対する反論を提示したのか。これらの問題にはキケロの同時代人であるフィロデモスの著作がヘルクラネウムパピルスから発見されその公刊が進んだことにより新たな光が投げかけられることになりました。
またフィロデモスの作品からは彼がエピクロスによる欲望の理論を拡大させて怒りという感情の問題を扱ったかがわかります。怒りの問題はセネカやプルタルコスが扱っているため、フィロデモスとこれらの著述家の思想を比較することで、各思想家の学説形成の背後にある要素が明らかになることが期待されます。もう一つの重要な論点として死についてのエピクロス派の理解を挙げることができます。エピクロスは「死は恐るべきものではない」と宣言したことで知られています。この学説をフィロデモスはいかに解釈したのか。これもエピクロス派における学説発展の歴史をたどる上で欠かせない作業となるでしょう。
以上からわかるように本論文集はエピクロス以後のエピクロス派の発展がどのようなものであったかに焦点を当てています。そのため読者としては出発点にあるエピクロス本人の哲学について一定以上の理解がある人が想定されています。もしあなたがエピクロス派ってなんじゃい、という状態なら、ロングによる『ヘレニズム哲学』や近藤智彦さんによる概説である「ヘレニズム哲学」(近刊)に目を通してから本書に進むとよいでしょう。
- 1. Introduction
- 2. 「独習者と生徒:エピクロスとエピクロスの伝統における権威と自律性との関係について」Autodidact and student: on the relationship of authority and autonomy in Epicurus and the Epicurean tradition. Michael Erler
- 3. 「エピクロスの神学的生得主義」Epicurus' theological innatism. David Sedley
- 4. 「神々についてのエピクロス」Epicurus on the gods. David Konstan
- 5. 「あらゆる政治家がシューシュポスなわけではない:ローマのエピクロス主義者たちが政治について教えられていたこと」Not all politicians are Sisyphus: what Roman Epicureans were taught about politics. Jeffrey Fish
- 6. 「エピクロス的徳、エピクロス的友情:キケロ対ヘルクラネウムパピルス」Epicurean virtues, Epicurean friendship: Cicero vs. the Herculaneum papyri. David Armstrong
- 7. 「キケロによるエピクロス神学の利用と濫用」Cicero's use and abuse of Epicurean theology. Holger Essler
- 8. 「フィロデモス『怒りについて』における怒りの必要性」The necessity of anger in Philodemus' 'On Anger'. Elizabeth Asmis
- 9. 「怒りについて フィロデモス、セネカ、プルタルコス」Philodemus, Seneca, and Plutarch on anger. Voula Tsouna
- 10. 「フィロデモスと早すぎる死への恐怖」Philodemus and the fear of premature death. Kirk R. Sanders.
- 作者: A.A.ロング,Anthony A. Long,金山弥平
- 出版社/メーカー: 京都大学学術出版会
- 発売日: 2003/06/01
- メディア: 単行本
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- 作者: Howard Jones
- 出版社/メーカー: Routledge
- 発売日: 1992/06/25
- メディア: ペーパーバック
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